この本の表紙の写真は、人気写真ブログ「シャッター・ガール」の大村祐里子さん(サイトはこちら)。僕もよくブログを拝見しており、最近ではTwitterでフォローなんぞもさせて頂いております。
相沢沙呼さんは、「青春ミステリ」の書き手として存在感を増している新進の作家さんですが、本棚スペースの危機にともなうハードカバー規制のために文庫本待ちの状態でありました。
大村さんのブログで表紙の写真のことを知り、今回は特別にハードカバー規制解除になったのでした。
写真を撮る人を扱った物語としては、市川拓司さんの「恋愛寫眞・もう一つの物語」などがあるわけですが、小説でも映画でも、写真というのは、撮影対象への思い入れの深さを示すための道具、という位置づけが大きいような気がしていますし、実際、写真を撮る側としても、そういう意識が強いことも確かです。
「ココロ・ファインダ」は、そういう写真の描き方とは少し視点が異なっており、写真を撮る側の自意識を掘り下げた内容になっています。
四つの章から成り立つ連作集ですが、それぞれ四人の写真部員の視点から語られています。
この四人は、お互いにお互いのことを認めたり、反発したりしているのですが、自分で自分のことをどう捉えているかと、他の人がその人のことをどう捉えているかが、微妙に違っていて、それが自分のコンプレックスになっていたり、逆に、その人を支える力になっていたりするのです。
個人的には、最終話の「ペンタプリズム・コントラスト」が一番好きです。
僕が写真を撮る時に、シズほどの情熱を持っているかはともかく、自分の思い描く写真と実際に撮れた写真のギャップに落ちこんでみたり、写真を見てくれる側に自分の思いが伝えきれないもどかしさを感じてみたり、という心情はよくわかります。写真だけでなく、この文章もふくめて、自分が好きな小説や漫画、映画の魅力を伝えたくても、それが伝えきれない時なども…。
単に自分の力不足というだけでなく、悪意を持って彼女や彼女の愛する友人達を傷つけようとする存在もあります。そういった悪意に対するやり場のない怒りが切ないほど文章から伝わってきました。
そんな彼女の苛立ちを、彼女の写真を受け入れてくれる他の三人の存在が救ってくれます。そして、その三人がシズの写真に対して、どんな気持ちを抱いているか、前の三話でしっかりと描かれているからこそ、単なる内輪受けや自己満足では終わらない説得力があるのだと思います。
第一話は「コンプレックス・フィルタ」。僕はは男なので顔の良し悪し、ましてや肌の綺麗さの点で写真うつりを気にするわけではありませんが、自分の映った写真を見ると、その表情のぎこちなさにがっくりくることはあります。人から見られることに自意識過剰になりがちなのは同じかな…と。だから、撮るのは好きですけれども、撮られるのは苦手です。自分が撮る時には、人の表情のいい部分を捉えたいないな、とは思ってますが、人物写真は、照れが入ってしまう部分があって、うまく写せないことも多いのです。だから、この話のラストでシズが撮ってる写真、ミラ子が自分で自分の良さを発見できるような写真を撮れるのは、うらやましいな、と思います。
第二話は「ピンホール・キャッチ」。秋穂の周りに合わせて明るくふるまうことのできない性格には、すごく共感を覚えます。僕の若い頃、バブル華やかなりし頃は、「明るい」「暗い」なんて二元論が流行っていて「暗さ」は馬鹿にされがちでしたが、最近でも「ノリ」とか「空気」なんて言葉で、同じような傾向が見られるのでしょうか。ピンホールカメラの、長い時間かけて光を取り込む感じが好きで、二台ほど持ってはいるのですが、うまく使いこなせた試しがありません。この間も、巻き上げのやり方を間違えて1本ダメにしました。修行を積まなくてはいけませんね。
第三話は「ツインレンズ・パララックス」。第一話ではミラ子から羨ましがられていたカオリだけど、彼女には彼女なりの悩みがあって…という話です。本当の自分と作っている自分の区別は本当に難しい。でも、作っている自分も「そうなりたい」気持ちの現れなので、嘘だと思わなくていいよね…と思わせてくれます。僕も、ネット上の人格は実際の自分と違うし…。二眼レフは個人的にこだわりがあるので、題材になるのは嬉しいですが、テーマ的にはパララックスよりも左右逆像の話でした。「レフレックス・イリュージョン」とか? 作中、二眼レフはアンティークで高いとありましたが、安くてよく写る二眼もありますので、是非みなさまも二眼ワールドへお越し下さい(笑)。
僕は、自分も写真を撮るので、写真を題材にしたこの物語は、自分と重なって感じる部分が多分にありましたが、おそらく、道具立ては違うにしろ、多くの人が青春時代に(もしくはそれをとうに過ぎたとしても)感じる自分自身への不安というものを、とても真摯に描いた物語であるように思います。
もちろん、写真好きの皆さんには、特にお薦めです。
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