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2009年6月

「秋期限定栗きんとん事件」

4488451055秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2009-02

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4488451063秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2009-03-05

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これまで小鳩くんの一人称だけで進められてきた小市民シリーズですが、この本では新たな語り手が登場します。なんと、小佐内さんに交際を申し込んだ、勇気ある下級生、瓜野くんです。
小鳩くんと小佐内さんが別れてしまった(という表現が不適切であれば、互恵関係を解消してしまった)ので、小佐内さんの行動をフォローする語り手が必要なのはもちろんなのですが、これがよもや叙述トリックの下地になっていようとは……

一人称での語りというのは、本当はその人が主観でとらえていることを、読者が客観的な事実だと捉えてしまう危険性があるわけですが、ここでいう叙述トリックというのは、そういう思い込みを利用して、最後にどんでん返しをくらわせる方法を指しています。
今回の事件は、これまでのものよりさらにスケールが大きく、2年生の秋から3年生の秋にかけて、約1年間が描かれています。その中で、小佐内さんと小鳩くんの張り巡らせた計略というのが、実に巧妙で、特にミステリーのトリックに明るいわけでもない僕などは、ただ感心するしかありません。

さて、この本を読み始めて最初に感じたのは、小鳩くんのセリフがずいぶんと長いな、ということです。
よくよく考えてみると、推理を進めていくことにあまり躊躇を感じていないんですね。かといって「小市民」という看板を下ろしたわけでもない。
これは、自分が推理を進めることと、小市民的に日々を送ることのバランスが、取れてきたということじゃないかなぁと思います。
「春期限定」などで触れられていた、小中学生時代の小鳩くんの所行を考えるに、彼が周囲から受けた反感の多くは、彼が推理を行うことではなく、それをひけらかしていたことに原因があったのではないでしょうか。
彼の成長にともなって自意識過剰が落ちつき、周囲とのバランスが取れるようになった結果、推理自体を行うことに罪悪感がなくなったということでしょう。
春期→夏期→秋期という流れの中で、その変化が意識的に語られたのだということを示す表現が、小鳩くんのモノローグの中にあったはずで、筆者の構成力には脱帽するばかりです。
おそらく描かれるであろう「冬期限定」で、この流れにどう決着をつけるのか、期待の高まるところと言えましょう。

「夏期限定」の感想を書いた時に、あの本の最後は読むのがつらかったと書きましたが、「秋期限定」のラストは、そのつらさを吹き飛ばすような、読み応えのあるものでした。
小佐内さんの狼たる所以を示すような、淡々とした、けれども冷酷な響きを持った語り。そして、冒頭に書いたミステリーの醍醐味とも言える解決編。
そして、何よりも、小鳩くんと小佐内さんがお互いにとってお互いが必要な存在であることを認め合ったこと。自らと自らの理解者を見つけた安心感と喜びが、彼らの中にあったに違いありません。
もちろん、彼ら自身も語っている通り、彼らの心の通じ合わせ方は、いわゆる「恋愛感情」とは必ずしも一致しないかもしれません。彼らの自意識が、ある意味ゆがんだ形を持っているというのも、嘘ではないでしょう。しかし、その己を抱えて生きていくしかないのだというある種の悟り、もしくは「開き直り」が、人が生きていくためには必要なのではないかと、僕は思います。
「春期限定」の感想にも書いた通り、彼らのそういった姿に、僕は「青春小説の醍醐味」を感じます。

それにしても、ラストの小佐内さんのセリフ。小鳩くんはどう受け止めたんでしょうね。
1.あの野郎、そんな不埒なマネをしやがったのか。
2.僕も同じ目に合うのは、やだなぁ。
3.「勝手に」じゃなきゃ構わないんだよね。
4.しばらくはおとなしくしていよう。
僕なら、「4」ですけど……(笑)

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「夏期限定トロピカルパフェ事件」

4488451020夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2006-04-11

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前作で「恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある」と記述された小佐内さんと小鳩くんの関係に、今作では微妙な変化が訪れます。
それは、物語世界の中での変化でもあるし、話者が作為的に読者にそう読ませようと仕掛けているという意味でもあります。
「前作では、『恋愛関係にはない』なんて書いていたけど、やっぱり…」と思わせることで、この作品に一つの萌え要素を加えようという意図は明白で、そして、悔しいことにその意図は、僕のような読者には、非常に…その…効果的なのです(笑)

ただ、そんなラブコメチックな展開には、当然裏があるわけで、その落差たるやすさまじいものがあります。僕は、そんなわけで、この本を読み終えるのが、結構つらかったです。もちろん、物語がつまらなくてという意味ではなく、逆に、彼らの気持ちが分かりすぎるほど分かってしまうので……

第一に、「春期」では、自転車といちごタルトを失った悲しみを糧にするがごとく、復讐への喜びをたぎらせていった小佐内さんなのに、今回の計画は、決して高揚感とともに計画・実行されたものではないでしょう。なので、彼女の姿が痛々しかったです。
第二に、先程述べた作品世界の中での二人の関係、特に小佐内さんの小鳩くんへの気持ちが、微妙に変化し、しかもまずいことに、それが自己否定と罪悪感につながっちゃう。小鳩くんだって、一人称の語りでは虚勢はってるけど、結構つらい思いをしてそうです。

僕は、すでに「秋期」の存在を知っているからまだ救いがあったけど(内容を知っていたわけじゃないけど、続きがあるということはこれでおしまいじゃないはずなので…)、リアルタイムで読んでた人は、さぞつらかったろうなと思います。
そんなわけで、「夏期」を読み終えた僕は、翌日には「秋期」を買いに走ったのでありました。

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「春期限定いちごタルト事件」

4488451012春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2004-12-18

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最近、米澤穂信さんの本をたて続けに読んでいます。
今月は読書欲が旺盛で、新しい作家を発掘したくて、mixiのコミュの「オススメ青春小説!!」のトピックスを参照させていただきました。
で、白羽の矢を立てたのは、米澤穂信さん。「小市民シリーズ」は、本屋さんで平積みになっていることも多く、その愛らしい表紙で印象に残っていたので、これを機に読んでみようと思い立ったわけです。

「さよなら妖精」「氷菓」「愚者のエンドロール」と読み進めていったのですが、正直、面白くないわけじゃないんだけど、もう一つという感じでした(何がもう一つかということを書き出すと長くなるので、その辺りは機会があれば、また後日ということで)。

しかし、「春期限定いちごタルト事件」に至って、お気に入り度数が一気に上がりました。
何が良いって、まず、文章のテンポが良いです。語り手の小鳩くんの感情が、手に取るようにわかる感じというのでしょうか。
で、そういう文章になるためには、小鳩くんの感情の起伏がないといけないわけですが、そこも面白いのです。
彼と、そのコンピである小佐内さんは、「小市民」を目指しているのですが、「目指す」というからには実は「小市民」ではないんですね。小鳩くんは、目の前にあるあらゆる事象を推理し、読み解くことに執着しています。彼は「自分はすべてを見通せる」という思い上がりを矯正しようと思い、同士である小佐内さんと互恵関係を結んでいるわけです。
その彼が、自分の好奇心や尊大さを抑えようとしても抑えられない様子、それを嘆いたり誤魔化したりする様子が、可愛らしいんですね。

小鳩くんが「小市民」を目指すゆえんは、一番最初に、しかもかなりコメディタッチで描かれるのですが、小佐内さんの方は、彼女が何をその内に飼っているのか、なかなか明かされません。
彼女がおいしそうに甘い物を食べるシーンというのは、それだけで魅力的ですし、読んでる側も甘い物を食べたくなるような破壊力があります。
しかし、その微笑ましさに隠された彼女の本性が解き放たれていく後半が、また見事です。そして、最初は自分が戒めをやぶる側だった小鳩くんが、解き放たれていく小佐内さんに翻弄される様が、また可愛らしいんですよね。

彼ら二人は、自分たちの本性を覆い隠そうとしている。でも、そこから逃れることができない。その人の持つ属性がなんであれ、自分が自分であることに苦しみ、そこから逃れようとし、そして自分を見いだしていくのが「青春」の一過程であると僕は思っています。
そういう意味では、このシリーズは、僕の考える「青春小説」そのものです。
実は、もう「夏」「秋」と読み終えていますので、彼らがそのどうなっていくのかを、僕は既に知ってしまっているのですが、そのスタートを飾るのにふさわしい第一作です。

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「おと・な・り」

109シネマズ・MM横浜にて鑑賞。
「虹の女神」の熊澤尚人監督の作品ということで、期待しておりました。
「ニライカナイの手紙」でも、主人公はカメラマンだったし、今回も主人公の一人はカメラマン。そういう設定がお好きですね。

タイトルが示す通り、「生活音」を通して繋がっているおとなりさん同士の話です。
ですから映画でも音の質には気を遣っているようで、そういう意味でも映画館で見て正解でした。
もちろん、心地良い音ばかりではなくて、時には不快な音もあって、腹を立てたりすることもあるわけですが、それでも「人の存在を感じ取る」手段にはなっているわけです。
人を感じる意識がもっと鈍ければ、生活音なんて気にしないか迷惑に感じるだけだし、もっと交流のある場であれば、音だけでつながっているなんてないわけですから、いかにも現代の都会的な状況なのかなとも思います。
そういえば、「毎日通っているコンビニ」なんてのも、割と重要な役目で登場してますし。

そういった関係が、物語のラストの方で、大きく変わってきます。音以外のつながりが、発見されていくのです。この「発見」というところがミソで、前から自分の中にあったものだからこそ、共通点がみつかった時に、「自分が認められた嬉しさ」を感じることになるのでしょうね。
主人公の二人が、それに気づいた所でストーリーはおしまい。「出会い」までしか描かれていないのですから、恋愛映画とはちょっと違うのですが、それでも幸せな気分で見終われる映画ではないかと思います。実は、エンドロールで、二人の未来を暗示する場面が流れるのですが、音にこだわった映画らしく、流れるのは音(セリフもふくめて)のみです。そんなエンディングも素敵でした。

ただ、この映画は恋愛的要素だけで成り立っているわけではなくて、悩めるアラサー(around thirty)の物語でもあるわけです。三十歳独身で仕事も順調ではあるんだろうけど「自分らしい仕事」ができているかどうかわからない。結婚とか子どもを持つということに憧れもあるけれど、自分は、となると考えてしまう。親との関係もしっくりいかない。そういう、色んな要素が、しかもさりげなく配置されています。だから、先ほど「幸せな気分で見終われる」と書きましたが、見ている間じゅう、ずっと幸せな気分でいられるかというと、そうでもないと思います。結構、ドキッとさせられるどんでん返しもありますし。

最後に、写真関係のことをいくつか。
先ほど挙げた「音以外のつながり」の中に、ふるさとの風景が入っています。聡が高校時代に写真雑誌に送って入選したコスモス畑の写真。七緒がいきつけの喫茶店で見上げる狭山湖の写真。これが、二人の接点になっていくわけです。僕も、写真を撮る人間ですが、こういう写真のあり方って素敵だと思います。芸術の世界では「オリジナリティ」が求められる部分がありますが、僕はそういうのって苦手なんですよね。みんながどこかで感じていることを、きちんとすくい上げて形にしたい、それが僕が写真や、物語に求めていることなのかな、と思いました。
それから、聡はカナダに行って風景写真を撮ることを夢見ているのですが、そのカナダの写真を提供したのが、写真家の吉村和敏さんだそうです。僕は、吉村さんのブログの愛読者ですし、展覧会も拝見させていただきました。今、吉村さんは日本の風景写真にも取り組んでいらっしゃるそうなので、僕としては、カナダよりもそちらの方が楽しみなんですが。

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7月の新刊

早々と7月の新刊情報です。
偶然らしいですが、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」が新訳で早川書房から出るようです。
僕は、ネットで古本探して買ってしまいましたよ(^^; まぁ、無茶苦茶高かったわけでないですから、よいですけど。


07/08
図書館の神様/瀬尾まいこ
筑摩書房・ちくま文庫/¥525

07/上
一九八四年〔新訳版〕/ジョージ・オーウェル
早川書房・ハヤカワepi文庫/¥966

07/16
おうちがいちばん 4/秋月りす
竹書房/¥680

07/17
絶対可憐チルドレン 17/椎名高志
小学館/¥420

07/17
ごきげんな日々/谷川史子
集英社・集英社文庫コミック版/¥630

07/17
外はいい天気だよ/谷川史子
集英社・集英社文庫コミック版/¥630

07/28
中庭の出来事/恩田陸
新潮社・新潮文庫/¥740

07/28
神の守り人(上)来訪編/上橋莱穂子
新潮社・新潮文庫/¥580

07/28
神の守り人(下)帰還編/上橋菜穂子
新潮社・新潮文庫/¥580

07/28
バルサの食卓/上橋菜穂子
新潮社・新潮文庫/¥460

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読書メーター

「読書メーター」始めました。

写真系のSNSには二つ入っているので、読書系のSNSがないかと思って探してみました。
それに、最近は、感想をまとめるヒマがなくて、読んだはいいけど感想を書いてない本がたくさん。
せめて、どんな本を読んだか記録しておきたいな…ということで。

http://book.akahoshitakuya.com/u/22860

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「1984年」

村上春樹の「1Q84」を読み始めました。
今、上巻の真ん中くらいです。

この本を読むにあたって、おそらく意識されているだろう、ジョージ・オーウェルの「1984年」を読んでみたくて、
本屋さんで探してみました。
ところが、どこの本屋さんにも置いてないんですね。
帰ってからネットで調べてみたら、早川文庫のものは絶版なんですね。
アマゾンのマーケット・プレイスでは、とんでもない値段になってました。
前作「アフター・ダーク」でも「ジョージ・オーウェル風チキンサラダ」なんてセリフがありましたし、
「1Q84」にも、彼の名前が登場してました。
早川さん、これを機に復刊してくれないかしら。
創元SF文庫でもOK(笑)
ちなみに、創元SF文庫で復刊されたばかりの「渚にて」も「1Q84」には登場してました。
小説に出てきたのは、映画の方ですが。

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