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2009年7月

「植物図鑑」

4048739484植物図鑑
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-01

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「クジラの彼」で有川さんのハードカバーが解禁になってしまったので、迷わず購入。実は「阪急電車」もアマゾンで注文して読了しております。「三匹のおっさん」まで手を出すかどうか思案中。
これで、ハードカバー解禁作家は、村上春樹・豊島ミホ・恩田陸・市川拓司と合わせて五人になりました。

裏表紙の装丁やタイトルのロゴなどは、本物の植物図鑑を模した作りになっていて、本としての作りも○。

恋愛モノといえば恋愛モノなんだけど、個人的にはラブストーリーとしては驚くような展開があるわけでもないし、恋愛について琴線に触れるようなシーンや台詞があるわけではありませんでした。
ただ、身近にある植物に関心を持つことによって、自然や、自分の住む場所についての知識が広がっていく様が楽しく読めた感じです。もちろん「知識をつける」ために読む本なわけではありませんが、知識が増えることによって自分の世界が広がることを主人公が楽しんでいる気持ちが伝わってくるので、自分もそういう体験をしてみたいなぁと思ってしまうわけです。

僕も、数年前までは、花の名前などほとんど知らない生活を送っていたのですが、鎌倉で写真を撮るようになって花の写真にはまり、花の名前を覚えるようになりました。
この本では、植物の知識が主に「食べること」に集中しており、僕は見栄えのよい花に集中しているという違いはありますが、それまで意識しなかった植物の名前を知る楽しさみたいなものは、共通しているかなぁと思いました。

それにしても、料理のできる男の子というのはカッコイイですね。「のだめ」の千秋もそうですし。
僕は、その点については、探求心が欠けているから、ダメです(笑)

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「さがしもの」

4101058245さがしもの (新潮文庫)
角田 光代
新潮社 2008-10-28

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角田さんの本は、結構前からポツポツと読んではいるのですが、どうもピンとくるものがなくて、これまでは感想を書かずじまいで来ていました。
同じ神奈川県出身だし、年も近いし、実は大学の学部も一緒です。角田さんは在学中にコバルトの新人賞を取ってプロデビューしており、その頃から名前だけは一方的に知っていたので、そういう意味では、「結構前から」というのは、控えめな表現かもしれません。「ピンとくるものがなくて」と書いた割には、継続して読み続けているのは、そういう所以があるわけです。
僕としては、同世代の作家さんには「自分の見てきたことや感じたことを世代の代表として描いて欲しい」という思いがある一方で、あんまり自分の考えていることをそのまま書かれてしまうと立つ瀬がないというか、寂しい気持ちになる部分もあり、読みのが楽しみでもあり怖くもあります。そういう葛藤を一番感じさせるのが、角田さんなのです。

で、この本の話ですが、本にまつわる短編を集めた作品集です。
一冊の本との巡り会い、本を介しての人間関係、一生の中で同じ本を何回も読む醍醐味、本屋さんの思い出など、本好きの人間としては「その気持ちわかる!」と言いたくなるような話ばかりが収められています。

中でも一番好きなのは「彼と私の本棚」です。これまで一緒に暮らしていた恋人に好きな人ができたと聞かされた時に「その人、本を読むの?」と尋ねてしまう感覚が素敵です。本を読むことによって自分が何を感じるかを振り返ることが、自分を知る一番の方法だと思い、それを他人と共有することが、他人とのつながりを深める一番の方法だということを、無意識に信じている人の台詞です。だから、本を読まない人間が、あなたのことを本当にわかっているはずがない、自分の方がもっとよくあなたを知っている、という訴えなのでしょうね。尤も、それが本読みの単なる感傷にすぎず、本の世界に閉じこもっている自分の小ささというものを実感せざるを得ない虚しさも、同時に味わうことになるわけですが…。それでも最後に「本棚を買いに行こう」と思うところが、本読みの悲しいサガですね(笑)

さて、本好きの人にも、図書館派vs蔵書派、新刊派vs古書派、単行本派vs文庫派といったような様々なタイプがあるようです。僕は「文庫本新刊蔵書派」ですね。それでも、最近は単行本にも手を出すようになりましたし、もっと大きな変化は、古書に対する気持ちが理解できるようになったことでしょうか。
昔は古本というものには全く縁がなかったわけですが、最近お気に入りになった作家さんの昔の作品が古本ではないと手に入らないという事態が何回かあり、僕の蔵書の中にも古本が数冊混ざっています。また、僕のもう一つの趣味である写真関係でも、欲しいと思う機材がすでに生産中止で、中古カメラを入手する機会が増えました。というより、今や中古で買った機材の方が数的には多いくらいです。
「新刊」とか「新製品」というのは、やはり売れないと商売としては成り立たないわけで、自分が気に入ったからといって、いつまでもそれがあると思ってはいけないんだなぁということを、最近はつくづく実感しています。だからこそ「出会い」が大事なんだなぁということも、以前に比べると分かってきたように思います。
この短編集に出てくる話は、どちらかというと「文庫本古書蔵書派」的なお話が多いので、しばらく前の僕だったら、あまりピンと来ていない話だったかもしれません。

最後に「あとがき」の話。
横浜の有隣堂の話が出てくるのですが、ジョイナスに有隣堂はないのですよ、角田さん。有隣堂のある地下街はダイヤモンド地下街です。
大学に入ってびっくりしたのが、同級生たちがほとんど有隣堂を知らなかったこと。あの色違いの文庫カバーを全然見かけないんです。あそこが神奈川県を中心に展開している本屋さんだということに気づいたのは、その時です。「大きな本屋さんといえば有隣堂」という刷り込みが、高校生までの僕にはできあがってましたから(^^;

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「とめはねっ!」

409151197Xとめはねっ! 鈴里高校書道部 1)
河合 克敏
小学館 2007-05-02

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書道部を舞台にしたマンガです。
学園マンガというと、部活動はあくまでも背景的な存在で(スポーツマンガは学園マンガとは別ジャンルとすると)、メインは友情とか恋愛とかの人間関係である場合が多いと思うのですが、この作品は、その比率が逆です。
友情とか恋愛とかの要素も多少は入っているものの、書道そのものがメインの題材です。
僕は、小学校の「習字」の時間以来、筆を持つ経験がほとんどなく、ご祝儀や不祝儀の表書きなんかは、妻に任せてしまうくらい字には自信がないのですが、そんな僕でも書道の魅力と奥深さがわかるような内容になっています。

部活そのものを題材としたマンガって、スポーツ系ではたくさんありますが、文化部系というのは珍しいですね。「宙のまにまに」が天文部をあつかった漫画ですが、他には、ちょっと思いつきません。

「のだめカンタービレ」のクラシック、「風が強く吹いている」(マンガじゃないけど)の箱根駅伝など、今まで自分が知らなかった世界を垣間見せてくれる作品って、素敵です。

それと、もう一つ。この作品、鎌倉が舞台なんです。実際の土地がモデルになっている作品でも、単独の場面ではともかく、相互の位置関係などは、かなり実際と違っているのが普通です。鎌倉が舞台の「海街diary」や「タイヨウのうた」もそうですし、大林監督の尾道三部作でもそうでした。
でも、このマンガは、お店の看板などもふくめて、かなり実際の鎌倉に近い感じです。
今日、久々に鎌倉に行ってきたのですが、二カ所くらい確信の持てない場所があったので、確かめてきました。
で、その二カ所は解決したのですが、確信どころか見当もつかない所が1つ。それは、筆のお店です。
ただ、取材協力の表記を見ると東京のお店のようだし、あそこだけは創作なんですかね。
あ、あと、合宿したお寺は建長寺が取材先だけど、「海から15分」という設定になってました。

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貞本エヴァ

「新劇場版:破」が公開中のエヴァンゲリオンですが、もう一つのニュースが…。
雑誌「ヤングエース」の創刊号で、貞本義行さんのマンガが再開されています。
先日、仕事帰りにちょっと漫画喫茶に立ち寄って読んでみたのですが、これが、なかなか衝撃的です。
ストーリーとしては、「air」の最初、戦略自衛隊がネルフ本部の武力占拠を行っている場面。
何が衝撃的って、ゲンドウが、自分が何を考えて補完計画を行うつもりなのかを吐露していることです。
そして、加持がドイツから持ち込んだアダムが、なぜ必要だったのかも、その片鱗がうかがえます。

新劇場版も嫌いではないけれど、僕の中では貞本エヴァが一番思い入れがあります。
心理面をきちんと描いてくれているし、設定もストーーリーも整合性を考えてくれていますから。
休載が多くて、いつ完結するのか心配ですが、そろそろラストスパートに入って欲しいですね。

あと、同じ雑誌に貞本さんがキャラクターデザインをした「サマーウォーズ」という映画のマンガも載ってました。
アニメ版「時をかける少女」の細田監督の作品だそうで、こちらも楽しみです。

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「レインツリーの国」

4101276315レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1)
有川 浩
新潮社 2009-06-27

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「海の底」と「クジラの彼」で一気にお気に入り作家の仲間入りをした有川浩さん。
文庫化をきっかけに「レインツリーの国」を読んでみました。

聴覚障害を扱った本だという話は聞いていたので、社会派っぽいストーリーなのかなと思ったのですが、中身はベタベタな恋愛小説でした。
それまで他人であった二人が、どう距離を縮めていくのか、距離が縮まっていることに対して何を思うのか、そして、そこで何を迷い、どう自分と相手を受け入れていくのかという、僕が恋愛小説や青春小説で最も好きなパターンを、見事に踏襲してくれた感じです。
その過程において、「障害」につていての向き合い方みたいなものも、結構ストレートに書かれているところはあるのですが、障害者と健常者の交流を「善いこと」であるから「しなければならないもの」という描き方ではなく、「恋愛」といういわば個人的な欲望を動機として書いているところが、偽善的でなくて良いなぁと思いました。
もっとも、僕自身は伸行ほど積極的なタイプでも気が利くタイプでもないので、彼を自分と重ねてこの本に没頭できたかというと、そうでもないと思うので、全体的な評価は、今一歩というところでしょうか。

とは言うものの、見事にツボをつかれた点もあります。
というのも、二人が出会うきっかけというのが、ブログに書いたライトノベルの感想なんですね。
僕は、一番好きな小説をあげろと言われれば「なぎさボーイ」をあげるような人間です。もちろん当時は「ライトノベル」などという言葉はなくて「少女小説」などと言われていましたが、一般の小説よりも一段低い立場の物語として見られていたのは、本当の所でしょう。「誰もこの良さをわかってくれない」と思っているからこそ、同士を見つけた時の嬉しさというのは格別なもので、そういう意味での共感はあります。
ライトノベルに限らず、マンガでも、小説でも、自分が大切にしているものについて同じ気持ちを分け合える相手がいてくれることは、本当に嬉しいものです。
ただ、僕の場合には、そういう幸福な体験は、ニフティのフォーラムみたいな、複数の人間が出入りする場所でワイワイやりながら…みたいなパターンが多かったので、残念ながら(?)ボーイ・ミーツ・ガールみたいなことにはなってないですね。大体からして、ネットの世界に出入りするようになったのは、結婚後だし。
それに、映画の「ハル」もそうなんですが、ネットでいきなりメールで交流ってのは、僕の感覚からすると、あまりないんじゃないかなぁと思います。ネットを扱った小説で、僕のネット観に近いのは、栗本薫さんの「仮面舞踏会」(伊集院大介シリーズ)と、菅浩江さんの「五人姉妹」ですかね。

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「風が強く吹いている」

4101167583風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)
三浦 しをん
新潮社 2009-06-27

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同じ下宿に住む十人の大学生が、箱根駅伝をめざす話です。
なんて書くと、荒唐無稽な話のように聞こえますが、個人的な感覚では、ギリギリ「おとぎ話」にはならずに済んでる感じです。
主要登場人物の一人である清瀬が、故障した強豪選手という設定で、彼自身がかなりのタイムを持つランナーであると同時に、監督・マネージャーの役目も果たしています。そして、下宿の住人たちをまとめる精神的な柱にもなっている、まさに八面六臂の活躍です。そんな彼の能力と人柄が、「こんなヤツがいたら、箱根をめざせるかもしれない」と思わせる力になっているんですね。
そして、その清瀬の元に集う住人の仲間たちが、また個性的です。そのキャラクターの面白さも、この小説の魅力の一つでしょう。

けれど、なんといっても圧巻は、箱根駅伝本番を走るランナーたちを描いた場面。
レースの結果という意味でも緊迫した展開になっているのはもちろんですが、ここで語られる選手ひとりひとりの内面が、とても素敵なんです。
「箱根」に出るには、当然ながら厳しい練習をしている訳ですから、何か理由がないとできません。それに、本番のレースで走るのがつらくなったり、プレッシャーを感じたりすれば、やはり「すがるもの」が必要になります。自分がなんのために厳しい練習に耐え、どんなつもりでレースを走るのか、それを考えることが、結局「自分は何者なのか」を語ることにつながるんですね。
その中身は、人によって様々で、家族への思いだったり、一緒に走る仲間への思いっだたりするわけです。過去の自分への反省、疎外感、コンプレックス、走ることの喜び……様々な要素が散りばめられています。さきほど「個性的なキャラクター」という言葉を使いましたが、それがいかんなく発揮されるのが、ラストの駅伝の場面といえましょう。

これまで、三浦しをんさんの作品は、何作か読んできたのですが、あまりピンとくる作品はありませんでした。ここまで直球勝負の青春小説を書くタイプには見えなかったので、驚いたといのが正直なところです。

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6月の読書

6月から始めた「読書メーター」には、「まとめ」という機能があり、先月とか先週とかに読んだ本を一覧にすることができるのです。
それにしても、6月はかなりたくさん読みました。
24冊で6977ページだそうです(再読本を2冊含めて)。
僕のこれまでの読書歴の中でも、これだけ読んだのは、初めてかもしれません。
これに匹敵するのは、浪人してた年の冬休みに(笑)、1週間で「幻魔大戦」20巻を一気読みした時くらいかな。

といっても、特に気合い入れて読書しようと意識したわけでもないんですよ。
それだけ、読みたい新刊がたくさん出たということですかね。
新しい「お気に入りの作家」を見つけるために、新規開拓もしましたしね。

もともと読むのは早い方ですし、通勤電車の中(駅での待ち合わせのふくむ)で往復読めば、早ければ1日1冊、おそくても2日で、普通の本なら読めてしまいます。
面白い本なら、帰宅後ちょっと読書タイムを取って、1冊読み切ってしまうということもありますし。

というわけで、以下は、「読書メーター」を使って作った今月読んだ本の一覧です。

2009年6月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6977ページ

■1Q84 BOOK 1
読了日:06月01日 著者:村上春樹

■1Q84 BOOK 2
読了日:06月02日 著者:村上春樹

■クジラの彼
読了日:06月04日 著者:有川 浩

■L16 (1)
読了日:06月05日 著者:東屋 めめ

■うごかし屋 2
読了日:06月09日 著者:芳崎 せいむ

■今ここにいるぼくらは
読了日:06月11日 著者:川端 裕人

■遠いうねり グイン・サーガ 127
読了日:06月12日 著者:栗本 薫

■汽車旅放浪記
読了日:06月13日 著者:関川 夏央

■モノレールねこ
読了日:06月14日 著者:加納 朋子

■邪魅の雫 上 分冊文庫版
読了日:06月17日 著者:京極 夏彦

■邪魅の雫 中 分冊文庫版
読了日:06月18日 著者:京極 夏彦

■邪魅の雫 下 分冊文庫版
読了日:06月19日 著者:京極 夏彦

■なんて素敵にジャパネスク 人妻編 8
読了日:06月20日 著者:山内 直実,氷室 冴子

■さよなら妖精
読了日:06月21日 著者:米澤 穂信

■氷菓
読了日:06月22日 著者:米澤 穂信

■愚者のエンドロール
読了日:06月22日 著者:米澤 穂信

■春期限定いちごタルト事件
読了日:06月24日 著者:米澤 穂信

■夏期限定トロピカルパフェ事件
読了日:06月25日 著者:米澤 穂信

■秋期限定栗きんとん事件 上
読了日:06月26日 著者:米澤 穂信

■秋期限定栗きんとん事件 下
読了日:06月26日 著者:米澤 穂信

■六月の桜―伊集院大介のレクイエム
読了日:06月27日 著者:栗本 薫

■タイム・リープ―あしたはきのう (上) ※再読
読了日:06月29日 著者:高畑 京一郎

■タイム・リープ―あしたはきのう (下) ※再読
読了日:06月29日 著者:高畑 京一郎

■PLUTO 8
読了日:06月30日 著者:浦沢 直樹

▼読書メーター
http://book.akahoshitakuya.com/

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「邪魅の雫」

4062763729分冊文庫版 邪魅の雫〈上〉 (講談社文庫)
京極 夏彦
講談社 2009-06-12

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文庫分冊版で購入しました。
1冊にまとまっている文庫版も同時発売だったのですが、僕は通勤時の電車の中で読むことが多いので、京極堂シリーズは、分冊版でそろえているのです。

さて、ミステリーであると同時に、京極堂の語る蘊蓄が面白さの一つである京極堂シリーズですが、今回は、あまりその方面の話はありませんでした。
その一方で、ミステリーとしての完成度は、非常に高いのではないでしょうか。ただし、僕は、ミステリーマニアではないので、「ミステリー」の定義をどう捉えるかで意見が別れる所があるかもしれませんが…。

今回の話を一言で表すと、「人は世界をどう認識するか」についての話といえるでしょう。さきほど蘊蓄はあまり語られないと書きましたが、それでも、文芸に対する評論について、犯罪を社会がどう裁くかについて、歴史学と民俗学の違いなど、ある程度語られていることはあります。ただし、僕は、これらは「認識」が人により、また方法により異なる結果をもたらすという共通点を持つものとしてとりあげられているのだと思います。
そして、「認識の違い=世界の違い」が、事件を引き起すものであり、解決を難しくしていたものであるという、キーポイントになっているのです。

「真実は認識によって変わる」というテーマをあつかった小説といえば、一番世に知られているのは、芥川龍之介の「薮の中」でしょう。僕は「認識論」も芥川も好きなのですが、あの作品だけは好きではないのです。なぜなら、あの作品では認識だけでは変わりようのない事象までもが、語り手によって変わってしまっているからです。
それに比して、この小説では、4つの「異なる物語」を成立させただけでなく、その4つが複雑に絡み合って「一つの現実」として成立している様を見事に描いています。

上巻を読んでいる段階では、複数の語り手によって語られている事象が、なんとなく相関関係があるのではないか、立場を変えて見た同じ事象なのではないかということを感じさせるにとまどっています。僕はやりませんでしたが、ミステリーマニアの人なら、あそこでタイムテーブルを書いて、相関関係を実証したくなるんじゃないかな…と思ったくらいです。
しかし、もちろん、話はそう簡単にはいかないわけで、中巻では、事件の様相が混沌としてきます。そして、下巻に至り、それが一つの現実として再統合されいく様は、見事としか言いようがありません。しかも、その中で、ここまでに複雑に張り巡らされた伏線が、事件そのものに関わるものから、解決する側の動きまで含めて、次々と明かされていくのですから尚更です。

思えば、京極堂シリーズの第1巻「うぶめの夏」も認識論を使った物語でした。さらにパワーアップした認識論の物語は、シリーズの中でも重要な位置を占める一作になるに違いありません。

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「エヴァンゲリヲン 新劇場版:破」

「エヴァンゲリヲン 新劇場版:破」を見てきました。

ちなみに「序」の感想はこちら

僕は、あまりネタバレを気にせずに記事を書く方ですが、
今回の映画については、パンフレットにも封印がされているくらいだし、新しい展開を楽しみにされている方も多いでしょうから、話の内容そのものには、触れずにおこうと思います。
それに、今回変えた部分の評価は、残りのあと2作を見ないとできないという面もありますし。
というわけで、印象論が中心です。
とはいっても、その「方向性」ということが、内容云々より重要かもしれませんが…


さて、今回の映画を見て思ったことが二つ。
登場人物の雰囲気がやけに明るいなぁ、ということ。
それと、「謎」の要素をずいぶんと削ったなぁということです。

登場人物の雰囲気が明るいというのは、エピソード的にラブコメっぽい部分が追加されているとか、アスカが妙に素直であるとか、綾波の表情が豊かであるとか、ゲンドウが微妙にいい人っぽくなっているとか、色々あります。シンジが妙にポジティブだという面もあるかな。
「air/まごころを君に」は、ちょっとダークサイドが表に出すぎで、そんなに好きではないのは確かですが、ここまで毒気を抜かれてしまうと、ちょっとエヴァっぽくないなぁとは感じてしまいます。
もっとも、それを補ってあまりあるような大きな「棘」が一本、ぐさりときますので、それでお釣りが来るといえば、来るかもしれません。
それに、テレビ版の16話や20話のような中身は、補完計画発動時にとっておいた方がよいかなぁとは以前から感じていたので(どこかにそれを書いたかどうかは覚えてません)、そこでしっかり描きこんでもらえれば、文句はありません。
それでも、アスカのエピソードは、もう少し確保して欲しかったです。結果として、今回のような描き方になるにしても。ちょっとアスカとシンジの関係性が薄いんですよね。

「謎」の部分がずいぶん減ったなぁと思うのは、前回も「リリス」がネルフでは既知の情報になっているという話を書きましたが、今回でいえば、加持の動きを省略(?)する方向に動いてましたね。ネルフとゼーレの確執、エヴァを戦力として見た場合の国同士のかけひきなんていう要素は、描かれていましたので、こちらに関してはあまりとまどいはありませんでした。
エヴァに関しても、少なくとも2号機に関しては、汎用兵器っぽく描かれてました。そして、暴走についても、ある程度人間がコントロールできるものとして扱われている感じです。それが伏線になっているせいで、ゼルエル(劇中では第10使徒)との戦いの時の初号機の暴走も、TV版のような神秘性がなく、衝撃度も薄かったように思います。エヴァや使徒の扱いも、補完計画をどう描写するのかに関わってくるので、そこにたどり着いてみないと、何とも言えないところはあるのですが…。

いずれにしろ、「Q」の公開が待ち遠しいことは確かです。
さすがに、2年はかからないで欲しいのですが…(笑)

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「PLUTO」8巻

4091825249PLUTO 8 (ビッグコミックス)
浦沢 直樹
小学館 2009-06-30

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1巻を読んだ時から、この漫画は傑作になると確信していました。
そして、その確信が間違っていなかったことを、証明してくれる最終巻でした。

中盤、やや「謎解き」に傾きがちで、個人的には不満な部分もありました。
僕は、登場人物の感情が、ストレートに描写されている方が好みなので、「こいつは何に気づいたんだろう」「何に驚いたんだろう」というのが、ベールに包まれているのは、ストレスがたまるんです(笑)
「20世紀少年」や「MONSTER」も、嫌いではないのですが、ラストの方では「謎を明かす」というサプライズの方へストーリーの流れが行ってしまい、自分が物語からくみ取りたいことが、印象的に残るラストにならなかったことに、少しひっかかりを持っていました。

もちろん、「プルートゥ」の最終巻も、色々な謎に決着がつく仕掛けが用意されているのですが、単に謎を開示して終わりということではなく、一つの大きなテーマが掲げられます。
そして、その大きなテーマが、この物語の中で語られた様々な要素を一つに結びつけ、それらをより印象的なものとして浮かび上がらせてくれたように思うのです。
まぁ、ほとんどゲジヒトのお手柄なのを、おいしいところだけアトムがさらっていった感はありますが、でもゲジヒトだけではなく、エプシロン、モンブラン、ノース2号、ブラント、ヘラクレス、そしてサハドの想いまでも抱え込んでエンディングを飾ることのできる器が、アトムには備わっていることは認めざるをえません。

アトムは世界最高のロボットです。人工知能の優秀さ、戦闘能力の高さ、人間と同じような表情や身のこなし…。しかし、物語のラストでアトムが使った最高の武器、それは「心」でした。
アトムの中には、憎しみが宿っていました。それこそ、世界を滅ぼしてしまいかねないほどの。そのマイナスの感情を制御し、「生きる」「世界を存続させる」というプラス方向へのエネルギーに変えることができたのが、何によってなのか、その正体については、詳しいことは描かれていません。
ただ、それが「心」と呼ばれるものであることは、十分に伝わってきたように思うのです。

「心」の正体が描かれなかったことについては、賛否両論あるかもしれません。
実際に、我々に憎しみをなくす力があるのかどうか、わかりません。アトムには、それがあったというのは、所詮、きれい事に過ぎないのかもしれません。
でも、このブログでも何度か書いたことがあるかもしれませんが、僕はフィクションは「かくあるべし」というきれい事を訴えるものであってよいと思っています。それが、人に伝わる力を持っているのであれば。
人間が持ち得なかった「心」をロボットが持っているというのは皮肉な話ですが、同じような構図は「ラピュタ」でも見られました。人間自身よりも、人間の作り出したものの方が素晴らしい…。でも、僕はそこに皮肉としてのマイナス要素よりも、人間は意志の力で、より理想的なものを作り出すことができるかもしれないのだ、というプラス思考を感じています。

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