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2012年2月

「暗い夜、星を数えて  3・11被災鉄道からの脱出」

4103319615暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出
彩瀬 まる
新潮社 2012-02-24

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僕がこの本の作者である彩瀬まるさんの名前を知ったのは「文芸あねもね」という同人誌です。「文芸あねもね」は、新潮社の主催する「女による女のためのR-18文学賞」の受賞者有志が、震災への義捐金を集めるために作った電子書籍です(この文章を僕がブログにアップする頃には、新潮文庫から紙の本として出版されていると思いますが)。
「女による女のためのR-18文学賞」といえば、僕の好きな豊島ミホさんが受賞した賞ですが、現在執筆をやめてしまった彼女が久しぶりに作品を発表するとのことで、僕はこの本を読むために、電子書籍端末を購入したと言っても過言ではないくらいです。
で、はっきり言って豊島さん目あてで買った本なのですが、読んでみると、他の作品もかなり面白い。で、面白いなぁと思った作家さんの本を買ってみたり、Twitterでフォローしてみたりしたのですが、その中の一人が彩瀬さんでした。
彩瀬さんは、その時点で出版された本がなく、受賞作「花に眩む」と、この本の第一章となった「川と星」が電子書籍になっているだけでした。
しかし、僕はその「川と星」を読んで、その端正な文章の表現力に魅了されました。ですから、その後のエピソードも加えた文章が一冊の本にまとまることを知って、必ず購入しようと思っていたのでした。

さて、この本を読み終わった時、僕が感じていたのは、胃を締め付けられるような感覚でした。得体のしれない不安感と、焦燥感のようなものが、その中にあったような気がします。頭で情報を受け取って、それに対して理性的な判断を下し、それが感情を動かす、というのではなく、読んだ言葉によって、そこに表現されたものが自分の中に巣食っていく感じ。映像や写真で見る被災地の様子は衝撃的だけれども、それとは違う何かを与えられたような気がします。

小説ではなくドキュメンタリーであるからには、そこで起きた出来事や状況を描くというのが本来の姿なのかもしれませんが、僕が「川と星」や「暗い夜、星を数えて」に心動かされたのは、おそらくそういう部分ではなく、そこにいた人々(筆者やその周辺にいた人々)の心の動きが描かれているからなのだろうと思います。直接心理描写をしているところはもちろん、出来事や状況を描くにしても、言葉の選び方や語り方で、見ている側の感情が透けて見える感じがするのです。
教科書的に言えば、災害時というのは感情的にならず、冷静に状況を判断するのが望ましいのは当然のことですが、やはりそこには容易にコントロールすることのできない人間的な感情が、どうしても蠢いてしまうということなのです。
僕は、震災に関しては、どちらかというと社会のシステム的な側面から語ろうとしていた感があるので、自分の見落としていた側面をつきつけられたような気がして、余計に印象深かったのだと思います。

内容面だけではなく、それを描き出す文章にも、心惹かれるものがあります。
彩瀬さんの文章は、センテンスが短めです。修飾語がたくさん重ねられた重厚な文章ではなく、一見何気なく書かれたかのような印象を与える文章です。しかし、それでいて内容がよく伝わってくるのですから、言葉の選び方がよいのでしょう。短い文章だけにテンポ良く読み進められるのですが、それだけに、ところどころにある畳みかけるような並列やリフレインが凄く心に響くんですよね。

そして最後にもう一つ。これは読む人の立場によって色々と変わってくるでしょうが、僕の個人的な事情で良かったと思う点として、旅行者の立場として描かれていることです。
おそらく、地元の人たちからして見れば、ここに書かれている状況や心情はまだまだ甘い点があるかもしれません。ただ、そうだろうなと考えるある種の罪悪感も含めて、そういう立場の人が書いたからこそ共感できる部分が、大きいような気もしています。

僕は、震災のルポをこれ以外に読んでいるわけではないので比較論はできませんが、おそらく、この本を読み返す度に、あの日、家族の無事を祈りながら歩いた柏尾川沿いの暗い遊歩道の景色と、それと同じような祈りや、もっと深い絶望を抱えた人たちのいたことを思い出すだろうなと思います。

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「マホロミ」冬目景

4091843360マホロミ 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
冬目 景
小学館 2012-01-30

by G-Tools

建物の記憶が見えるようになってしまった大学生(土神)が、同じように建物の記憶が見える女性(真百合)と共に、かつての建物の主の思いを読み解いていく物語。
主人公が建築家の学生であり、幼なじみの女の子が建築部品マニアであったりするので、建物に関する蘊蓄が日常会話的であり、押しつけがましくない雰囲気です。
また、建築士であった祖父の残した建物に住むところから始まっているために、家に住む人の想いを推し量ることに対する指向性が、主人公の中に(ということは、それを読む読者の側にも)出来上がっていることも、自然に物語世界に入れる下地になっているのではないかと感じました。
横浜が舞台になっていますが、六角橋とか大倉山とか、海側ではない地域がメインで、紋切り型の横浜のイメージになってしまっていない点も、個人的にはお気に入りです。象の鼻パークあたりの話も出てくるのですが、すでにその建物からは海が見えずに、街の人たちも実は海が見えてないことに慣れてしまっている雰囲気で描いている辺り、リアルな感覚なのではないかと思います。

僕が横浜で写真を撮るようになったのは、ここ数年のことで、しかも明治以降の建築物に思い入れがあるわけではありません。むしろ、洋館に関しては「日本の風土と合わないじゃん」という気持ちがあるので、むしろ横浜の無理矢理西洋風にしているような街並みには、違和感を覚えることも多いのです。
でも、古書や中古カメラなど、古い物をいつまでも存在させ続けることに全く郷愁を感じないわけでもないので、建物に対する思い入れも理解できないではありません。この漫画の中にも「建物は使ってこそだと思ってるからね」というセリフがあるのですが、僕も古いカメラを骨董扱いするのは嫌いで、現役で使いまくってます。

冬目景さんの漫画は「ハツカネズミの時間」で初めて読んで中途半端なSF感に手応えを感じなかったのですが、「ももんち」で良い感触をつかみ「羊の歌」「イエスタディをうたって」でかなり好きになりました。
この作品も「建物の記憶を読み取る」というのがサイコメトリー的にSFっぽく書かれているのではなく、建物に心があるかのように擬人的に描かれているのが、冬目さんの絵柄やストーリーの雰囲気に合っているように思えます。
続きが楽しみな作品ですが、「イエスタディをうたって」の続きもよろしくお願いしますよ…。

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