カテゴリー「書籍・雑誌」の記事

「“文学少女”見習いの、初戀。」

4757748299“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2009-04-30

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文学少女シリーズの外伝です。
心葉くんは三年生に進級し、文芸部にも新入生が入ってきます。
遠子先輩に支えられてきた心葉が、今度は新入生の菜乃を支えていきます。そんな心葉がたくましく見え、かなりカッコイイです。
しかも、後輩に向かって文学作品の蘊蓄を話したり、想像力で事件に立ち向かったりする姿には、単に彼が成長したというだけではなく、遠子先輩の影響をひしひしと感じます。
「未来への全身」と「過去への追憶」の両方を描いた、見事な続編となっていると思います。

ちなみに、モチーフは近松門左衛門の「曽根崎心中」。
心中物ですから、相変わらず重い話なんですが、死んでしまおうとする相手を勇気づけるシーンが、とても美しいです。

この外伝がどこまで続くかわかりませんが、あとしばらくは「新しい物語」が読めるのだと思うと、嬉しいですね。

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「“文学少女”と恋する挿話集 1」

4757745788“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2008-12-26

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本編完結後に出版された短編集です。
本編はかなりシビアが話が多いのですが、こちらはコメディ風味なので、気軽に味わえます。
遠子先輩も心葉くんも、シリアスタッチでもコメディタッチでも、全く違和感なくこなせるところが、このシリーズの幅の広さですね。
しかも、それぞれの短編に、文学作品がきちんと登場するので、遠子先輩の文学の蘊蓄を楽しみにしている人には、一冊でたくさんの料理を味わうことができるアラカルトメニューといったところでしょうか。
本編の方でちらっと出てきたエピソードを細かくフォローしたり、麻貴先輩や流人くんの視点で描かれた遠子先輩や心葉くんが読めたり、本編をより楽しむことができる作品集になっていると思います。
個人的には、美羽と芥川くんの話が好き。

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「“文学少女”と神に臨む作家」

4757741731“文学少女”と神に臨む作家 上 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2008-04-28

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4757743718“文学少女” と神に臨む作家 下 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2008-08-30

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文学少女シリーズ、本編の最終話になる、7巻目・8巻目です。
これまで謎に包まれてきた遠子先輩の家庭の話がメインになります。
どうして遠子先輩が流人くんの家で暮らしているのか、叶子おばさんとの関係はどうなっているのか、なぜ流人くんがあれほどまでに心葉に小説を書かせようとするのかといったことが、次第に明らかになっていきます。
メインテーマは、遠子先輩の両親と、流人くんの両親との間にある愛憎劇。

話の組み立てとしては面白いと思うんだけれど、作家とそれを育てる人の話にしすぎたことに、ちょっと違和感を感じました。この話のもう一つのテーマとして、心葉が小説を書くのか書かないのかという話があって、それと関連づけるという意味では必要なんですが、どうも作家像をせまく語りすぎているような気がしてなりません。
それと、遠子先輩と心葉の関係だって、最初に「青空に似ている」ありき、二作目を書かせたいという目的ありきではなくても良かったはず。一緒に過ごした二年間に、もっと重みを持たせる意味づけにして欲しかったなぁ。最初はちょっと興味があって会ってみたかっただけだったのに、彼の話を食べているうちに、二作目が書けるのではないか、もしくは、彼の中で書きたいという気持ちが高まっているんじゃないかということを感じてきて…という話だったら、もっと良かったと、個人的には思っています。
大体、叶子さんを論破した時点で、「狭き門」は一人でくぐるものじゃないって話になるのなら、最後に二人が別れなければならない理由は、ないはず。心葉は、最初は叶子さんに圧倒されていたのが、最後は彼女を説得できるまでになるのだから、この物語の中だけでも、ずいぶん成長したはずです。
話の流れとして、その方が感動的になるとはわかっていますが、思わず、「あんたはメーテルか!」と言いたくなりました。

とはいえ、シリーズを通してあちこちにばらまいた伏線を見事に回収し、シリーズ最終話としての役割を見事に果たしていることは否めません。
「月花を孕く水妖」の感想で書いた「地雷」(レモンパイのことですよ)の見事な肩すかしっぷりには笑わせていただきましたし、「白いマフラーとサケをくわえたクマ」は単なる冗談かと思っていたら、ラストで重要なアイテムと化してましたしね。

さて、このシリーズを通して心葉の胸の内を去来するのは、「書くべきか」「書かざるべきか」という葛藤です。
これまで、このブログではあまり触れてこなかったと思いますが、その昔、僕も「書く側の一人」だったことがあります。といっても、大した活動をしていたわけではなくて、大学時代に同人雑誌を作っていただけですが。同人誌っていうと、今の時代、マンガ界の言葉になってしまった感がありますが、そういうのではなく、詩とか小説とかを語学クラスの友人たちと持ち寄って、コピー誌を作っていたのです。
僕は、読み手としての自分は、なかなかの水準にあると自負しているのですが、その目で自分の書いたものを見ると、いかに自分が書き手に向いていないかわかってしまうのですね。悲しいことに。
写真や書評はブログで発表できるのに、自分の書いた小説はほとんど封印しているのは、そういう訳です。まぁ、写真も、見る人が見れば「よくこんなの載せられるなぁ」というレベルかもしれませんが、いいんです、自分で粗が見えなければ。
そんな僕でも、この話を読んでいる時には、「もう一度書いてみようか」という気持ちにさせられることがしばしばありました。写真につける短歌を考えたりということはありましたが、「小説」って形で文章を書いたことは、15年くらいないんですけどね…

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「“文学少女”と月花を孕く水妖」

4757739184“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2007-12-25

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シリーズ6冊目は「特別編」と銘打たれてはいるものの、位置づけとしては7巻に向けてのエピローグという感じですね。
そもそも、ゴシック体のいつものモノローグが、心葉が過去を回想する形で書かれていることが、すべてを象徴しているかのようです。
最初に読んだ時にはあまり意識しなかったのですが、エピローグ部のゴシック体部分に、ななせ派の人にとっては「これは!」と思わせる内容が書かれているんですよね。再読して気づいたのですが、7巻目の最初の部分に出てくるあるキーワードが、ここにさりげなくはさまれていて、「こんな所に地雷(しかもこんな強力なの)を埋めておくなんて!」と思わずニヤリとしてしまいます。
このシリーズの構成力と伏線回収を巧みさは、本当にすばらしくて、再読すると、最初には見えなかったものがたくさん見えてきます。一度全編を書き上げてから、順番に出版していったのではないかと思えるほど。

さて、今回のモチーフは泉鏡花です。前に金沢に行った時に、妻につきあって泉鏡花記念館に行ったのですが、その時に、もっと真面目に見ておけばよかったと反省しています。
泉鏡花がモチーフだけあって、今回はホラー色が強くなっています。遠子先輩が大の苦手なヤツですね。
ホラー的な物語の謎がどう解明されていくのかを楽しむのも、この巻の楽しみ方の一つではありますが、この巻は、それ以上に「遠子先輩の可愛らしさを味わう巻」といっても過言ではありません。遠子派の人たちにとってはたまらない一冊でしょう。
ただ、ここで遠子先輩が無意味に可愛いだけではなくて、ちゃんと次の巻への伏線になっているところが恐ろしいところです。「夜叉ヶ池」の百合と晃の物語が、80年前のゆりと秋良の物語に重なり、そして、そのそれぞれが遠子と心葉の物語に繋がっていく構造になっています。特に、エピローグで遠子がゆりの気持ちを語る場面は、後から読み返してみると、本当に切なくなります。

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「“文学少女”と慟哭の巡礼者」

4757736851“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2007-08-30

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文学少女シリーズの5冊目。
いよいよ、心葉がずっと心に残していた初恋の少女、朝倉美羽が登場します。
ゴシック体のモノローグが本編と並行して挿入されていく形は、いつもと同じなのですが、今回はそれが読者のミスリードを誘ったり、謎をふくらませたりする方向に働くのではなく、美羽の本心を早い時点から垣間見させる方向に働いていたのではないかと思います。
芥川くんが心葉の部屋を訪れた時の心葉の心の揺れなどは、どちらを信じてよいかという迷いではなく、本当は美羽が嘘をついていることはわかっているのだけれども、それを信じたくないという怖さの方があったのではないかと思いますし、僕は、あの場面を読んでいて、美羽って何て恐ろしいヤツなんだろうかと思っていました。

しかし、美羽が心葉に向ける憎しみは、実は美羽がそれほどに心葉を求めていたことの裏返しであることが、徐々に分かってきます。
そして、前作の感想にも書いたように、琴吹さんとの諍いの中で、彼女はずっと心の奥底にしまわれていた、彼女の孤独を、心葉を求める素直な気持ちを、吐露することになるのです。
「繋がれた愚者」での芥川くんにも深い共感を覚えた僕ですが、この場面での美羽の気持ちにも、心打たれるものがありました。

美しい言葉を求め、他人に優しくありたいと願いながらも、それを叶えることができず、そのすべさえも見えない美羽を、哀しみから救ってくれたのは、やはり遠子先輩の言葉でした。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフに、プラネタリウムの満点の星のもとに遠子先輩が語る場面は、幻想的な美しさに満ちています。満天の星をあまたの物語にたとえ、本を手にとることで癒される渇きのあることを、教えてくれるのです。テーマとしては「繋がれた愚者」と重なる部分があるのですが、場面の美しさという点では、こちらが上回っていますね。

それに、琴吹さんと美羽の戦いは、色んな意味で面白いです。伏線は、かなり前から周到に準備されているし、いったん決着がついたかに見える状況から、更に逆転が待っていますし、この後の巻の二人の関係というのも、いい感じなのです。

さて、今回のモチーフとなっている、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」。いまさら説明するまでもない、超メジャー作品ですが、正直、僕はあまり好きではありません。宮沢賢治の作品では、「貝の火」が一番好きなんですよね。僕の中では、「銀河鉄道」と言えば、圧倒的に「999」です。
今回、感想を書くにあたって、「銀河鉄道の夜」を再読してみたのですが、やっぱり手応えがないんですよね。遠子先輩の話の中の「銀河鉄道の夜」の方が、圧倒的に魅力的だったりします。
なぜかということを考えてみるに、「銀河鉄道の夜」は、僕にとっては幻想的すぎるんですね。絵本にすると、色彩的に美しくなるのかもしれませんが…。「銀河鉄道の夜」が内面世界への旅だとすると、「999」は未知の世界への冒険です。劇場版では「機械の体を手に入れる」という目的が明確になりすぎていますが、TVアニメや原作の漫画では、さまざまな星をめぐることで、鉄郎が、何が正しいことなのか、自分はどう生きたいのかを学ぶ話になっていると思うのです。ハーロックがかっこいいので、劇場版も大好きですが(笑)

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「“文学少女”と穢名の天使」

4757735065“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2007-04-28

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「文学少女」シリーズは、語られるテーマのシリアスさではライトノベルらしくない部分がありますが、その一方で、いかにもラノベらしい部分もあります。女性キャラ陣の「萌え度」が高いのも、その一つです。
2chのスレをのぞいてみると、「遠子派」「美羽派」「ななせ派」「千愛派」などが乱立し、お互いに覇を競い合っているようです。

こんなことを突然書き始めたのは、シリーズ4作目の「穢れ名の天使」は、これまで脇役でしかなかったツンデレキャラの琴吹ななせさんが、井上心葉くんのハートをわしづかみにするお話だからです。
なぜ美羽が「コノハにはわからない」という言葉を残して屋上から飛び降りなければならなかったかを、彼は直視できずにいます。
親友である夕歌を失い、彼と同じ立場に立ったななせが、あくまでも夕歌の真実を知ろうとつらい現実と戦う姿に、彼は勇気づけられるのです。そして、人と関わることにあれほど消極的だった彼が、ななせを守っていきたいという気持ちにめざめる様は、なかなかに素敵でした。

このシリーズの物語の構造で言うと、この巻は、次の巻でいよいよ心葉と美羽が再会する、その序章になっています。口の悪い「遠子派」の人は、ななせは本来脇役だったのが、人気が出たので、急遽心葉の彼女役まで出世したみたいなことを書いていましたが、僕はそうは思いません。
遠子さんは、心葉くんを見守ることはしていても、彼を美羽から奪い取ろうとは思ってくれないでしょう。次の巻のネタバレになってしまいますが、心葉が美羽の呪縛から逃れられたのは、ななせの存在があってからこそで、だからこそ、この一巻が「慟哭の巡礼者」の前に置かれているのだと思っています。

それから、心葉くんが小説の書き手であるからなのか、筆者自身の思いなのかはわかりませんが、このシリーズでは「読むこと」の話だけではなく、「書くこと」の話も出てきます。今回の話では、「歌うこと」も同じ位置づけで登場していました。何かを行うということは、人を傷つけることもある。自分が傷つくこともある。それを知って、立ち止まってしまいたくなることも……。しかし、その一方で、それによって幸せを感じてくれる人もいる。だから、人は一歩を前に踏み出すことができるんですね。
ありきたりな話かもしれませんが、僕はありきたりな話は嫌いではありません。ちょっと言葉を変えれば「普遍的」ということですから。ただし、それが心に染みるような形で語られていればですけれど…。

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「“文学少女”と繋がれた愚者」

4757730845“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2006-12-25

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文学少女シリーズの3冊目になります。

このシリーズ、これまでの2作も嫌いではないですが、3作目のこの巻を読んで、一気に好感度が上昇し、「お気に入りのシリーズ」の位置を占めることになりました。

文学作品と小説の中の人物関係をリンクさせ、本歌取りのような形で作品世界に重みを出すと共に、現代的な設定に話を置き換えることによって、古典的な作品を解釈しやすくし、その作品を手にとってみたくなる、あるいは読み返したくなる気持ちにさせるという点は、これまでと同じです。

ただ、ここまでの2冊は、メインキャラの2人(心葉と遠子先輩ではなく、千愛と蛍のことです)にうまく感情移入ができなかったんですよね。

千愛に関していうならば、「道化」の部分はわからなくはありません。作中でも、誰も本音をさらけだして生きているわけではなく、どこかしら演技して生きている部分があるというような話があったと思います。
ただ、「感情がない」という部分に関しては、どうかなと思います。現実にそんなことがあるかどうかはともかく(自分がありえないと思ったとしても想像して共感するのが読むという行為のはずなので)、もし本当に何も感じる気持ちがないのだとしたら、それを「恥ずかしい」と思う気持ちもないんじゃないか、心葉の訴えだって効果がないんじゃないかと思ってしまうのです。「人とは感じる基準が違う」とか「どこか感情的になりきれない自分がいる」とかいう話ならば、まだ理解できるのですが…。
太宰が「人間失格」で描いた「恥の多い人生」というのも、この作品で出てきた「恥の多い人生」とは、ちょっと違う気がしています。その意味で、「道化」「恥の多い人生」というキーワードだけで太宰とシンクロさせようというのは、ちょっと無理があるのではないかなぁという感じです。

蛍に関しては、蒼に対する憎しみと愛情の板挟みになっている点までは、理解できるんです。が、そこに加わるもう一つの要素(ネタばれ防止のために自主規制)を、どう位置付けるかがわからないんです。ただ、その要素は、話の展開上必要ではあるんで、無くしてしまうのは、難しいでしょうね。
そういう意味では、話の構造をつくるために、感情面の説得力が、少なくとも、僕の中では落ちてしまったなぁというわけなのです。

それに対して、「繋がれた愚者」では、誠実であろうとしても他人を傷つけてしまい、どう生きていけばよいのか迷っている芥川くんの気持ちが、きちんと伝わってきたように思います。
前半で、彼が母親に書いた手紙の中に「切りさきたい」という気持ちを書きすぎているのは、誰が本を切ったのかを読者に知られないようにするための方策だと思うんですが、そこがちょっとやり過ぎたなと思う所はあったのですが、後半の展開がすごく良かったです。
今回、題材となっているのは、武者小路実篤の「友情」です。学園祭で、文芸部の認知度を高めるために、遠子先輩が「友情」を劇でやろうということになるわけです。その「友情」の台詞が、芥川くんや心葉の心情に重なってくる部分があり、そのために彼らは劇を上演することに躊躇することにもなります。
これまでの2冊と違い、この巻では「友情」の引用がかなりたくさん行われます。話の構造が、テーマが似ているというだけではなく、文章に込められた感情までが、重なってくるのです。しかも、同じことに苦しんでいる自分の口から、それを台詞として言わなければいけないという状況まである。
そういう意味で、この巻では、登場人物(芥川くんや心葉)の気持ちと、題材となった作品(友情)のシンクロ度が非常に高く、双方の内容を、十分に描ききったという感があります。

そして、劇のラストで遠子先輩が力説する、芥川くんの迷いをはらすための言葉。そして、心葉と芥川くんが握手をかわすエンディング。僕の大好きな中島みゆきさんの「時代」や「with」に通じるものがあるテーマです。武者小路実篤の本は、ほとんど読んだことがないのですが、これを機に読んでみようという気になりました。どうせ、家のどこかにはあるでしょうしね(笑)

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「“文学少女”と飢え渇く幽霊」

4757729154”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2006-08-30

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文学少女シリーズの第2弾です。
この巻で背景となる作品は「嵐が丘」です。
僕は、「嵐が丘」は読んだことがなくて、ただ「ガラスの仮面」で知っているだけなんですよね。

「死にたがりの道化」の感想でも書いたように、僕はこの巻の登場人物については、あまり深い共感は持てなかったです。特にラスト付近。
「嵐が丘」を絡めたストーリーの構造にこだわり過ぎて、そこに至る人物の心情の方は、後付けで付加されたもののように感じてしまったのは、勘繰り過ぎでしょうか。

それでも、幾重にも張りめぐらされた謎が、少しずつ明らかになっていくストーリーの展開には惹かれるものがありますし、軽いコメディタッチにも重い文芸調にも対応できる作者の文章のうまさにも、うならされるところがあり、面白く読める小説ではあったと思います。

それと、これは読み返した時に気づいたのですが、前の巻では「匂わす」くらいにしか登場しなかった美羽に対する心葉くんの気持ちが、少しずつではありますが、描かれるようになってきています。
彼の喪失感と無力感には、共感できる面がありますし、それに対する遠子先輩の態度(独歩の『武蔵野』を差し出す辺り)には、なかなかに微笑ましいものがあります。

僕は、もうシリーズの既刊本を読破しているので、「“文学少女”見習いの初恋。」での堂々とした心葉くんの態度を見ているわけで、その後でこの頃の心葉くんの様子を見ると、「この彼が、よくぞ立派になったものだ」という感慨を禁じ得ません。

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「“文学少女”と死にたがりの道化」

4757728069“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2006-04-28

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「文学少女」という言葉の響きと、可愛らしい絵に惹かれて購入しました。
もっとも、タイトルがタイトルなので、単に可愛らしいだけの話ではないだろうとは思っていたのですが、予想以上に暗い話でした。

このシリーズでは、ある文学作品と物語をからめて描くのが恒例なのですが、この巻では、太宰治の「人間失格」がとりあげられています。
僕自身の読書歴で言うと、太宰治の作品は、大学時代にかなり読んだのですが、あまり傾倒した覚えがありません。印象に残っているのは「駆込み訴え」ぐらいでしょうか。
この巻で描かれているのは、「悲しい」「嬉しい」という感情を人並みに持つことのできない人物の苦しみなのですが、僕の読んだ限りにおいては、太宰が「人間失格」の中で描いた「自己否定」とは、ちょっと種類が違うのではないかと感じました。
ただ、どちらにしても、僕が感じる「自己への不安」とは異質なもので、正直、共感度が高かったとは言い難いです。その点については、エヴァンゲリオンの碇シンジくんの方が、よほど共感できる部分があると言えましょう(笑)

じゃあ、僕がこの物語を読んで、全く惹かれる所がなかったかというと、そんなことはありません。

本編の中に、書き手のわからない文章の断片が挿入されていくという手法は、このシリーズの定番なのですが、この巻では、それを書いたのが誰なのかということが最後の方まで明かされず、その謎を解き明かしていくというミステリー的な要素がふくまれています。そして、いったん謎が明かされたかのように見えた後のどんでん返しも、かなり見事です。

それに、主人公たる井上心葉くんの抱える「闇」が、伏線としてあちこちに顔を出し、それが果たしてどうなっていくのか、つい先のシリーズを読む気にさせられてしまうのです。

それにも増して、「文学について語る」という行為に対する共感には、抗いがたいものがあります。
ヒロインたる天野遠子先輩は、文字の書かれた紙を食事として食べてしまう特異体質の持ち主なのですが、彼女が食べ物の味に例えながら語る物語の世界は、とても甘美に聞こえ、自分もその作品を読んでみたいという欲求に駆られます。
西日のさす文芸部の部室で、うず高く積まれた本に囲まれて、お気に入りの本をひたすら読むという、もう自分には体験できないであろう幸せな場面を読むだけで、この物語を嫌いになることなど、できるはずがありません(笑)

僕は、すでにこのシリーズの既刊本を読破しているのですが、「これは当たりだ」と確信したのは3巻目以降です。1巻目では、まだ「手応えがあるかな…」くらいの感触でした。
なので、この巻だけを読んで、今ひとつという感想を持った方は、だまされたと思って3巻目までは読んでみて下さいませ。

この本、今年の「角川文庫の100冊」に入っているので、あちこちの本屋で平積みになっているのを見かけます。ただ、その他の巻は結構品薄で、特に2巻目は、アマゾンでも品切れ状態。
太宰治は、生誕100年で盛り上がっているみたいですし、その余波で、この本を手に取ってくれる人が増えるといいなと思ってます。

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「阪急電車」

4344014502阪急電車
幻冬舎 2008-01

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阪急電車・今津線を舞台にした連作短編集です。
僕は、電車も連作短編という形も好きなので、とても好みに合う本なのです。
単に今津線が出てくるというだけでなく、前半が下り電車、後半が上り電車を舞台にし、一駅ごとの章立てになっています。そして、後半が前半の後日談となっている辺り、実に凝った構成です。

図書館でいつも一緒になる女性を気にかける男の子、軍オタで年齢=彼女いない歴の男の子、ワラビの採集に執着する女の子など、有川さんらしいキャラが満載です。

ただ、ちょっと気になるのは、電車の中ってあんなに会話が多いかなぁということ。
確かに電車はいろいろな人が集まる出会いの場で、人生の縮図みたいな所がありますけれど、「見る」「聞く」が基本で、そこから「話す」にいたるには、もう少し時間が必要じゃないかと思うのです。
関西ではそういう雰囲気が普通なのかなぁ…と思う所もあるので、「非現実的」とまでは言いませんが、個人的な感覚とはズレてしまっているので、ちょっと残念です。

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8月の新刊

8月の新刊チェックです。

08/04
陰陽師 首/夢枕獏
文藝春秋/文春文庫/\520

08/04
楽園のしっぽ/村山由佳
文藝春秋/文春文庫/\650

08/05
ちょっと江戸まで 2/津田雅美
白泉社/\420

08/10
のだめカンタービレ 22/二ノ宮知子
講談社/\440

08/12
3月のライオン 3/羽海野チカ
白泉社/\510

08/12
獣の奏者 闘蛇編/上橋菜穂子
講談社/講談社文庫

08/12
獣の奏者 王獣編/上橋菜穂子
講談社/講談社文庫

08/上
グイン・サーガ128 謎の聖都/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\609

08/26
ガラスの仮面 44/美内すずえ
白泉社/\420

08/29
”文学少女”と恋する挿話集 2/野村美月
エンターブレイン/ファミ通文庫/\672

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7月の読書

先月からレギュラー記事(?)になった「先月の読書」のコーナーです(笑)

6月の時に、24冊で「僕のこれまでの読書歴の中でも、これだけ読んだのは、初めてかもしれません」などと書きましたが、今月は、それを大幅に上回って、40冊・9688ページだそうです。
といっても、ほとんど小説だった6月とちがい、7月はマンガの冊数が多いので、見た目ほどの違いはないと思うのですが…

確かに、この2ヶ月、新しい作家を求めてあれこれ手を出してみたのは本当です。
そして、「当たり」が多かったために、既刊本を一気に読むケースが多かったです。
それが、冊数の増加につながってますね。

コメントを書きたい本もたくさんあるのですが「読む幸せ」の方に気持ちが取られてなかなか…(^^;


2009年7月の読書メーター
読んだ本の数:40冊
読んだページ数:9688ページ

■レインツリーの国
読了日:07月01日 著者:有川 浩

■植物図鑑
読了日:07月03日 著者:有川 浩

■おいしいコーヒーのいれ方 Second Season I 蜂蜜色の瞳
読了日:07月04日 著者:村山由佳

■きつねのはなし
読了日:07月05日 著者:森見 登美彦

■風が強く吹いている
読了日:07月06日 著者:三浦 しをん

■終末のフール
読了日:07月09日 著者:伊坂幸太郎

■キマイラ青龍変 〈キマイラ〉別巻
読了日:07月09日 著者:夢枕 獏

■闇狩り師 黄石公の犬
読了日:07月09日 著者:夢枕 獏

■夏が僕を抱く
読了日:07月11日 著者:豊島ミホ

■さがしもの
読了日:07月12日 著者:角田 光代

■夏目友人帳 1
読了日:07月12日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 2
読了日:07月13日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 3
読了日:07月13日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 4
読了日:07月14日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 5
読了日:07月14日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 6
読了日:07月15日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 7
読了日:07月15日 著者:緑川 ゆき

■夏目友人帳 8
読了日:07月16日 著者:緑川 ゆき

■クドリャフカの順番
読了日:07月17日 著者:米澤 穂信

■神様ドォルズ 5
読了日:07月18日 著者:やまむら はじめ

■絶対可憐チルドレン 17
読了日:07月18日 著者:椎名 高志

■とめはねっ! 鈴里高校書道部 1
読了日:07月20日 著者:河合 克敏

■とめはねっ! 鈴里高校書道部 2
読了日:07月20日 著者:河合 克敏

■とめはねっ! 鈴里高校書道部 3
読了日:07月20日 著者:河合 克敏

■とめはねっ! 鈴里高校書道部 4
読了日:07月20日 著者:河合 克敏

■とめはねっ! 鈴里高校書道部 5
読了日:07月20日 著者:河合 克敏

■一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-
読了日:07月21日 著者:佐藤 多佳子

■一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-
読了日:07月21日 著者:佐藤 多佳子

■一瞬の風になれ 第三部 -ドン-
読了日:07月21日 著者:佐藤 多佳子

■ごきげんな日々 ―谷川史子初恋読みきり選
読了日:07月22日 著者:谷川 史子

■外はいい天気だよ ―谷川史子片思い作品集
読了日:07月22日 著者:谷川 史子

■阪急電車
読了日:07月22日 著者:有川 浩

■一九八四年[新訳版]
読了日:07月25日 著者:ジョージ・オーウェル

■神の守り人〈上〉来訪編
読了日:07月27日 著者:上橋 菜穂子

■神の守り人〈下〉帰還編
読了日:07月27日 著者:上橋 菜穂子

■〝文学少女〟と死にたがりの道化
読了日:07月28日 著者:野村 美月

■〝文学少女〟と飢え渇く幽霊
読了日:07月29日 著者:野村 美月
http://book.akahoshitakuya.com/b/4757729154

■〝文学少女〟と繋がれた愚者
読了日:07月30日 著者:野村 美月
http://book.akahoshitakuya.com/b/4757730845

■〝文学少女〟と穢名の天使
読了日:07月30日 著者:野村 美月
http://book.akahoshitakuya.com/b/4757735065

■〝文学少女〟と慟哭の巡礼者
読了日:07月30日 著者:野村 美月
http://book.akahoshitakuya.com/b/4757736851


▼読書メーター
http://book.akahoshitakuya.com/

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「植物図鑑」

4048739484植物図鑑
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-01

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「クジラの彼」で有川さんのハードカバーが解禁になってしまったので、迷わず購入。実は「阪急電車」もアマゾンで注文して読了しております。「三匹のおっさん」まで手を出すかどうか思案中。
これで、ハードカバー解禁作家は、村上春樹・豊島ミホ・恩田陸・市川拓司と合わせて五人になりました。

裏表紙の装丁やタイトルのロゴなどは、本物の植物図鑑を模した作りになっていて、本としての作りも○。

恋愛モノといえば恋愛モノなんだけど、個人的にはラブストーリーとしては驚くような展開があるわけでもないし、恋愛について琴線に触れるようなシーンや台詞があるわけではありませんでした。
ただ、身近にある植物に関心を持つことによって、自然や、自分の住む場所についての知識が広がっていく様が楽しく読めた感じです。もちろん「知識をつける」ために読む本なわけではありませんが、知識が増えることによって自分の世界が広がることを主人公が楽しんでいる気持ちが伝わってくるので、自分もそういう体験をしてみたいなぁと思ってしまうわけです。

僕も、数年前までは、花の名前などほとんど知らない生活を送っていたのですが、鎌倉で写真を撮るようになって花の写真にはまり、花の名前を覚えるようになりました。
この本では、植物の知識が主に「食べること」に集中しており、僕は見栄えのよい花に集中しているという違いはありますが、それまで意識しなかった植物の名前を知る楽しさみたいなものは、共通しているかなぁと思いました。

それにしても、料理のできる男の子というのはカッコイイですね。「のだめ」の千秋もそうですし。
僕は、その点については、探求心が欠けているから、ダメです(笑)

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「さがしもの」

4101058245さがしもの (新潮文庫)
角田 光代
新潮社 2008-10-28

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角田さんの本は、結構前からポツポツと読んではいるのですが、どうもピンとくるものがなくて、これまでは感想を書かずじまいで来ていました。
同じ神奈川県出身だし、年も近いし、実は大学の学部も一緒です。角田さんは在学中にコバルトの新人賞を取ってプロデビューしており、その頃から名前だけは一方的に知っていたので、そういう意味では、「結構前から」というのは、控えめな表現かもしれません。「ピンとくるものがなくて」と書いた割には、継続して読み続けているのは、そういう所以があるわけです。
僕としては、同世代の作家さんには「自分の見てきたことや感じたことを世代の代表として描いて欲しい」という思いがある一方で、あんまり自分の考えていることをそのまま書かれてしまうと立つ瀬がないというか、寂しい気持ちになる部分もあり、読みのが楽しみでもあり怖くもあります。そういう葛藤を一番感じさせるのが、角田さんなのです。

で、この本の話ですが、本にまつわる短編を集めた作品集です。
一冊の本との巡り会い、本を介しての人間関係、一生の中で同じ本を何回も読む醍醐味、本屋さんの思い出など、本好きの人間としては「その気持ちわかる!」と言いたくなるような話ばかりが収められています。

中でも一番好きなのは「彼と私の本棚」です。これまで一緒に暮らしていた恋人に好きな人ができたと聞かされた時に「その人、本を読むの?」と尋ねてしまう感覚が素敵です。本を読むことによって自分が何を感じるかを振り返ることが、自分を知る一番の方法だと思い、それを他人と共有することが、他人とのつながりを深める一番の方法だということを、無意識に信じている人の台詞です。だから、本を読まない人間が、あなたのことを本当にわかっているはずがない、自分の方がもっとよくあなたを知っている、という訴えなのでしょうね。尤も、それが本読みの単なる感傷にすぎず、本の世界に閉じこもっている自分の小ささというものを実感せざるを得ない虚しさも、同時に味わうことになるわけですが…。それでも最後に「本棚を買いに行こう」と思うところが、本読みの悲しいサガですね(笑)

さて、本好きの人にも、図書館派vs蔵書派、新刊派vs古書派、単行本派vs文庫派といったような様々なタイプがあるようです。僕は「文庫本新刊蔵書派」ですね。それでも、最近は単行本にも手を出すようになりましたし、もっと大きな変化は、古書に対する気持ちが理解できるようになったことでしょうか。
昔は古本というものには全く縁がなかったわけですが、最近お気に入りになった作家さんの昔の作品が古本ではないと手に入らないという事態が何回かあり、僕の蔵書の中にも古本が数冊混ざっています。また、僕のもう一つの趣味である写真関係でも、欲しいと思う機材がすでに生産中止で、中古カメラを入手する機会が増えました。というより、今や中古で買った機材の方が数的には多いくらいです。
「新刊」とか「新製品」というのは、やはり売れないと商売としては成り立たないわけで、自分が気に入ったからといって、いつまでもそれがあると思ってはいけないんだなぁということを、最近はつくづく実感しています。だからこそ「出会い」が大事なんだなぁということも、以前に比べると分かってきたように思います。
この短編集に出てくる話は、どちらかというと「文庫本古書蔵書派」的なお話が多いので、しばらく前の僕だったら、あまりピンと来ていない話だったかもしれません。

最後に「あとがき」の話。
横浜の有隣堂の話が出てくるのですが、ジョイナスに有隣堂はないのですよ、角田さん。有隣堂のある地下街はダイヤモンド地下街です。
大学に入ってびっくりしたのが、同級生たちがほとんど有隣堂を知らなかったこと。あの色違いの文庫カバーを全然見かけないんです。あそこが神奈川県を中心に展開している本屋さんだということに気づいたのは、その時です。「大きな本屋さんといえば有隣堂」という刷り込みが、高校生までの僕にはできあがってましたから(^^;

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「レインツリーの国」

4101276315レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1)
有川 浩
新潮社 2009-06-27

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「海の底」と「クジラの彼」で一気にお気に入り作家の仲間入りをした有川浩さん。
文庫化をきっかけに「レインツリーの国」を読んでみました。

聴覚障害を扱った本だという話は聞いていたので、社会派っぽいストーリーなのかなと思ったのですが、中身はベタベタな恋愛小説でした。
それまで他人であった二人が、どう距離を縮めていくのか、距離が縮まっていることに対して何を思うのか、そして、そこで何を迷い、どう自分と相手を受け入れていくのかという、僕が恋愛小説や青春小説で最も好きなパターンを、見事に踏襲してくれた感じです。
その過程において、「障害」につていての向き合い方みたいなものも、結構ストレートに書かれているところはあるのですが、障害者と健常者の交流を「善いこと」であるから「しなければならないもの」という描き方ではなく、「恋愛」といういわば個人的な欲望を動機として書いているところが、偽善的でなくて良いなぁと思いました。
もっとも、僕自身は伸行ほど積極的なタイプでも気が利くタイプでもないので、彼を自分と重ねてこの本に没頭できたかというと、そうでもないと思うので、全体的な評価は、今一歩というところでしょうか。

とは言うものの、見事にツボをつかれた点もあります。
というのも、二人が出会うきっかけというのが、ブログに書いたライトノベルの感想なんですね。
僕は、一番好きな小説をあげろと言われれば「なぎさボーイ」をあげるような人間です。もちろん当時は「ライトノベル」などという言葉はなくて「少女小説」などと言われていましたが、一般の小説よりも一段低い立場の物語として見られていたのは、本当の所でしょう。「誰もこの良さをわかってくれない」と思っているからこそ、同士を見つけた時の嬉しさというのは格別なもので、そういう意味での共感はあります。
ライトノベルに限らず、マンガでも、小説でも、自分が大切にしているものについて同じ気持ちを分け合える相手がいてくれることは、本当に嬉しいものです。
ただ、僕の場合には、そういう幸福な体験は、ニフティのフォーラムみたいな、複数の人間が出入りする場所でワイワイやりながら…みたいなパターンが多かったので、残念ながら(?)ボーイ・ミーツ・ガールみたいなことにはなってないですね。大体からして、ネットの世界に出入りするようになったのは、結婚後だし。
それに、映画の「ハル」もそうなんですが、ネットでいきなりメールで交流ってのは、僕の感覚からすると、あまりないんじゃないかなぁと思います。ネットを扱った小説で、僕のネット観に近いのは、栗本薫さんの「仮面舞踏会」(伊集院大介シリーズ)と、菅浩江さんの「五人姉妹」ですかね。

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「風が強く吹いている」

4101167583風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)
三浦 しをん
新潮社 2009-06-27

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同じ下宿に住む十人の大学生が、箱根駅伝をめざす話です。
なんて書くと、荒唐無稽な話のように聞こえますが、個人的な感覚では、ギリギリ「おとぎ話」にはならずに済んでる感じです。
主要登場人物の一人である清瀬が、故障した強豪選手という設定で、彼自身がかなりのタイムを持つランナーであると同時に、監督・マネージャーの役目も果たしています。そして、下宿の住人たちをまとめる精神的な柱にもなっている、まさに八面六臂の活躍です。そんな彼の能力と人柄が、「こんなヤツがいたら、箱根をめざせるかもしれない」と思わせる力になっているんですね。
そして、その清瀬の元に集う住人の仲間たちが、また個性的です。そのキャラクターの面白さも、この小説の魅力の一つでしょう。

けれど、なんといっても圧巻は、箱根駅伝本番を走るランナーたちを描いた場面。
レースの結果という意味でも緊迫した展開になっているのはもちろんですが、ここで語られる選手ひとりひとりの内面が、とても素敵なんです。
「箱根」に出るには、当然ながら厳しい練習をしている訳ですから、何か理由がないとできません。それに、本番のレースで走るのがつらくなったり、プレッシャーを感じたりすれば、やはり「すがるもの」が必要になります。自分がなんのために厳しい練習に耐え、どんなつもりでレースを走るのか、それを考えることが、結局「自分は何者なのか」を語ることにつながるんですね。
その中身は、人によって様々で、家族への思いだったり、一緒に走る仲間への思いっだたりするわけです。過去の自分への反省、疎外感、コンプレックス、走ることの喜び……様々な要素が散りばめられています。さきほど「個性的なキャラクター」という言葉を使いましたが、それがいかんなく発揮されるのが、ラストの駅伝の場面といえましょう。

これまで、三浦しをんさんの作品は、何作か読んできたのですが、あまりピンとくる作品はありませんでした。ここまで直球勝負の青春小説を書くタイプには見えなかったので、驚いたといのが正直なところです。

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6月の読書

6月から始めた「読書メーター」には、「まとめ」という機能があり、先月とか先週とかに読んだ本を一覧にすることができるのです。
それにしても、6月はかなりたくさん読みました。
24冊で6977ページだそうです(再読本を2冊含めて)。
僕のこれまでの読書歴の中でも、これだけ読んだのは、初めてかもしれません。
これに匹敵するのは、浪人してた年の冬休みに(笑)、1週間で「幻魔大戦」20巻を一気読みした時くらいかな。

といっても、特に気合い入れて読書しようと意識したわけでもないんですよ。
それだけ、読みたい新刊がたくさん出たということですかね。
新しい「お気に入りの作家」を見つけるために、新規開拓もしましたしね。

もともと読むのは早い方ですし、通勤電車の中(駅での待ち合わせのふくむ)で往復読めば、早ければ1日1冊、おそくても2日で、普通の本なら読めてしまいます。
面白い本なら、帰宅後ちょっと読書タイムを取って、1冊読み切ってしまうということもありますし。

というわけで、以下は、「読書メーター」を使って作った今月読んだ本の一覧です。

2009年6月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6977ページ

■1Q84 BOOK 1
読了日:06月01日 著者:村上春樹

■1Q84 BOOK 2
読了日:06月02日 著者:村上春樹

■クジラの彼
読了日:06月04日 著者:有川 浩

■L16 (1)
読了日:06月05日 著者:東屋 めめ

■うごかし屋 2
読了日:06月09日 著者:芳崎 せいむ

■今ここにいるぼくらは
読了日:06月11日 著者:川端 裕人

■遠いうねり グイン・サーガ 127
読了日:06月12日 著者:栗本 薫

■汽車旅放浪記
読了日:06月13日 著者:関川 夏央

■モノレールねこ
読了日:06月14日 著者:加納 朋子

■邪魅の雫 上 分冊文庫版
読了日:06月17日 著者:京極 夏彦

■邪魅の雫 中 分冊文庫版
読了日:06月18日 著者:京極 夏彦

■邪魅の雫 下 分冊文庫版
読了日:06月19日 著者:京極 夏彦

■なんて素敵にジャパネスク 人妻編 8
読了日:06月20日 著者:山内 直実,氷室 冴子

■さよなら妖精
読了日:06月21日 著者:米澤 穂信

■氷菓
読了日:06月22日 著者:米澤 穂信

■愚者のエンドロール
読了日:06月22日 著者:米澤 穂信

■春期限定いちごタルト事件
読了日:06月24日 著者:米澤 穂信

■夏期限定トロピカルパフェ事件
読了日:06月25日 著者:米澤 穂信

■秋期限定栗きんとん事件 上
読了日:06月26日 著者:米澤 穂信

■秋期限定栗きんとん事件 下
読了日:06月26日 著者:米澤 穂信

■六月の桜―伊集院大介のレクイエム
読了日:06月27日 著者:栗本 薫

■タイム・リープ―あしたはきのう (上) ※再読
読了日:06月29日 著者:高畑 京一郎

■タイム・リープ―あしたはきのう (下) ※再読
読了日:06月29日 著者:高畑 京一郎

■PLUTO 8
読了日:06月30日 著者:浦沢 直樹

▼読書メーター
http://book.akahoshitakuya.com/

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「邪魅の雫」

4062763729分冊文庫版 邪魅の雫〈上〉 (講談社文庫)
京極 夏彦
講談社 2009-06-12

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文庫分冊版で購入しました。
1冊にまとまっている文庫版も同時発売だったのですが、僕は通勤時の電車の中で読むことが多いので、京極堂シリーズは、分冊版でそろえているのです。

さて、ミステリーであると同時に、京極堂の語る蘊蓄が面白さの一つである京極堂シリーズですが、今回は、あまりその方面の話はありませんでした。
その一方で、ミステリーとしての完成度は、非常に高いのではないでしょうか。ただし、僕は、ミステリーマニアではないので、「ミステリー」の定義をどう捉えるかで意見が別れる所があるかもしれませんが…。

今回の話を一言で表すと、「人は世界をどう認識するか」についての話といえるでしょう。さきほど蘊蓄はあまり語られないと書きましたが、それでも、文芸に対する評論について、犯罪を社会がどう裁くかについて、歴史学と民俗学の違いなど、ある程度語られていることはあります。ただし、僕は、これらは「認識」が人により、また方法により異なる結果をもたらすという共通点を持つものとしてとりあげられているのだと思います。
そして、「認識の違い=世界の違い」が、事件を引き起すものであり、解決を難しくしていたものであるという、キーポイントになっているのです。

「真実は認識によって変わる」というテーマをあつかった小説といえば、一番世に知られているのは、芥川龍之介の「薮の中」でしょう。僕は「認識論」も芥川も好きなのですが、あの作品だけは好きではないのです。なぜなら、あの作品では認識だけでは変わりようのない事象までもが、語り手によって変わってしまっているからです。
それに比して、この小説では、4つの「異なる物語」を成立させただけでなく、その4つが複雑に絡み合って「一つの現実」として成立している様を見事に描いています。

上巻を読んでいる段階では、複数の語り手によって語られている事象が、なんとなく相関関係があるのではないか、立場を変えて見た同じ事象なのではないかということを感じさせるにとまどっています。僕はやりませんでしたが、ミステリーマニアの人なら、あそこでタイムテーブルを書いて、相関関係を実証したくなるんじゃないかな…と思ったくらいです。
しかし、もちろん、話はそう簡単にはいかないわけで、中巻では、事件の様相が混沌としてきます。そして、下巻に至り、それが一つの現実として再統合されいく様は、見事としか言いようがありません。しかも、その中で、ここまでに複雑に張り巡らされた伏線が、事件そのものに関わるものから、解決する側の動きまで含めて、次々と明かされていくのですから尚更です。

思えば、京極堂シリーズの第1巻「うぶめの夏」も認識論を使った物語でした。さらにパワーアップした認識論の物語は、シリーズの中でも重要な位置を占める一作になるに違いありません。

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「秋期限定栗きんとん事件」

4488451055秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2009-02

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4488451063秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2009-03-05

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これまで小鳩くんの一人称だけで進められてきた小市民シリーズですが、この本では新たな語り手が登場します。なんと、小佐内さんに交際を申し込んだ、勇気ある下級生、瓜野くんです。
小鳩くんと小佐内さんが別れてしまった(という表現が不適切であれば、互恵関係を解消してしまった)ので、小佐内さんの行動をフォローする語り手が必要なのはもちろんなのですが、これがよもや叙述トリックの下地になっていようとは……

一人称での語りというのは、本当はその人が主観でとらえていることを、読者が客観的な事実だと捉えてしまう危険性があるわけですが、ここでいう叙述トリックというのは、そういう思い込みを利用して、最後にどんでん返しをくらわせる方法を指しています。
今回の事件は、これまでのものよりさらにスケールが大きく、2年生の秋から3年生の秋にかけて、約1年間が描かれています。その中で、小佐内さんと小鳩くんの張り巡らせた計略というのが、実に巧妙で、特にミステリーのトリックに明るいわけでもない僕などは、ただ感心するしかありません。

さて、この本を読み始めて最初に感じたのは、小鳩くんのセリフがずいぶんと長いな、ということです。
よくよく考えてみると、推理を進めていくことにあまり躊躇を感じていないんですね。かといって「小市民」という看板を下ろしたわけでもない。
これは、自分が推理を進めることと、小市民的に日々を送ることのバランスが、取れてきたということじゃないかなぁと思います。
「春期限定」などで触れられていた、小中学生時代の小鳩くんの所行を考えるに、彼が周囲から受けた反感の多くは、彼が推理を行うことではなく、それをひけらかしていたことに原因があったのではないでしょうか。
彼の成長にともなって自意識過剰が落ちつき、周囲とのバランスが取れるようになった結果、推理自体を行うことに罪悪感がなくなったということでしょう。
春期→夏期→秋期という流れの中で、その変化が意識的に語られたのだということを示す表現が、小鳩くんのモノローグの中にあったはずで、筆者の構成力には脱帽するばかりです。
おそらく描かれるであろう「冬期限定」で、この流れにどう決着をつけるのか、期待の高まるところと言えましょう。

「夏期限定」の感想を書いた時に、あの本の最後は読むのがつらかったと書きましたが、「秋期限定」のラストは、そのつらさを吹き飛ばすような、読み応えのあるものでした。
小佐内さんの狼たる所以を示すような、淡々とした、けれども冷酷な響きを持った語り。そして、冒頭に書いたミステリーの醍醐味とも言える解決編。
そして、何よりも、小鳩くんと小佐内さんがお互いにとってお互いが必要な存在であることを認め合ったこと。自らと自らの理解者を見つけた安心感と喜びが、彼らの中にあったに違いありません。
もちろん、彼ら自身も語っている通り、彼らの心の通じ合わせ方は、いわゆる「恋愛感情」とは必ずしも一致しないかもしれません。彼らの自意識が、ある意味ゆがんだ形を持っているというのも、嘘ではないでしょう。しかし、その己を抱えて生きていくしかないのだというある種の悟り、もしくは「開き直り」が、人が生きていくためには必要なのではないかと、僕は思います。
「春期限定」の感想にも書いた通り、彼らのそういった姿に、僕は「青春小説の醍醐味」を感じます。

それにしても、ラストの小佐内さんのセリフ。小鳩くんはどう受け止めたんでしょうね。
1.あの野郎、そんな不埒なマネをしやがったのか。
2.僕も同じ目に合うのは、やだなぁ。
3.「勝手に」じゃなきゃ構わないんだよね。
4.しばらくはおとなしくしていよう。
僕なら、「4」ですけど……(笑)

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「夏期限定トロピカルパフェ事件」

4488451020夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2006-04-11

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前作で「恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある」と記述された小佐内さんと小鳩くんの関係に、今作では微妙な変化が訪れます。
それは、物語世界の中での変化でもあるし、話者が作為的に読者にそう読ませようと仕掛けているという意味でもあります。
「前作では、『恋愛関係にはない』なんて書いていたけど、やっぱり…」と思わせることで、この作品に一つの萌え要素を加えようという意図は明白で、そして、悔しいことにその意図は、僕のような読者には、非常に…その…効果的なのです(笑)

ただ、そんなラブコメチックな展開には、当然裏があるわけで、その落差たるやすさまじいものがあります。僕は、そんなわけで、この本を読み終えるのが、結構つらかったです。もちろん、物語がつまらなくてという意味ではなく、逆に、彼らの気持ちが分かりすぎるほど分かってしまうので……

第一に、「春期」では、自転車といちごタルトを失った悲しみを糧にするがごとく、復讐への喜びをたぎらせていった小佐内さんなのに、今回の計画は、決して高揚感とともに計画・実行されたものではないでしょう。なので、彼女の姿が痛々しかったです。
第二に、先程述べた作品世界の中での二人の関係、特に小佐内さんの小鳩くんへの気持ちが、微妙に変化し、しかもまずいことに、それが自己否定と罪悪感につながっちゃう。小鳩くんだって、一人称の語りでは虚勢はってるけど、結構つらい思いをしてそうです。

僕は、すでに「秋期」の存在を知っているからまだ救いがあったけど(内容を知っていたわけじゃないけど、続きがあるということはこれでおしまいじゃないはずなので…)、リアルタイムで読んでた人は、さぞつらかったろうなと思います。
そんなわけで、「夏期」を読み終えた僕は、翌日には「秋期」を買いに走ったのでありました。

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「春期限定いちごタルト事件」

4488451012春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2004-12-18

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最近、米澤穂信さんの本をたて続けに読んでいます。
今月は読書欲が旺盛で、新しい作家を発掘したくて、mixiのコミュの「オススメ青春小説!!」のトピックスを参照させていただきました。
で、白羽の矢を立てたのは、米澤穂信さん。「小市民シリーズ」は、本屋さんで平積みになっていることも多く、その愛らしい表紙で印象に残っていたので、これを機に読んでみようと思い立ったわけです。

「さよなら妖精」「氷菓」「愚者のエンドロール」と読み進めていったのですが、正直、面白くないわけじゃないんだけど、もう一つという感じでした(何がもう一つかということを書き出すと長くなるので、その辺りは機会があれば、また後日ということで)。

しかし、「春期限定いちごタルト事件」に至って、お気に入り度数が一気に上がりました。
何が良いって、まず、文章のテンポが良いです。語り手の小鳩くんの感情が、手に取るようにわかる感じというのでしょうか。
で、そういう文章になるためには、小鳩くんの感情の起伏がないといけないわけですが、そこも面白いのです。
彼と、そのコンピである小佐内さんは、「小市民」を目指しているのですが、「目指す」というからには実は「小市民」ではないんですね。小鳩くんは、目の前にあるあらゆる事象を推理し、読み解くことに執着しています。彼は「自分はすべてを見通せる」という思い上がりを矯正しようと思い、同士である小佐内さんと互恵関係を結んでいるわけです。
その彼が、自分の好奇心や尊大さを抑えようとしても抑えられない様子、それを嘆いたり誤魔化したりする様子が、可愛らしいんですね。

小鳩くんが「小市民」を目指すゆえんは、一番最初に、しかもかなりコメディタッチで描かれるのですが、小佐内さんの方は、彼女が何をその内に飼っているのか、なかなか明かされません。
彼女がおいしそうに甘い物を食べるシーンというのは、それだけで魅力的ですし、読んでる側も甘い物を食べたくなるような破壊力があります。
しかし、その微笑ましさに隠された彼女の本性が解き放たれていく後半が、また見事です。そして、最初は自分が戒めをやぶる側だった小鳩くんが、解き放たれていく小佐内さんに翻弄される様が、また可愛らしいんですよね。

彼ら二人は、自分たちの本性を覆い隠そうとしている。でも、そこから逃れることができない。その人の持つ属性がなんであれ、自分が自分であることに苦しみ、そこから逃れようとし、そして自分を見いだしていくのが「青春」の一過程であると僕は思っています。
そういう意味では、このシリーズは、僕の考える「青春小説」そのものです。
実は、もう「夏」「秋」と読み終えていますので、彼らがそのどうなっていくのかを、僕は既に知ってしまっているのですが、そのスタートを飾るのにふさわしい第一作です。

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7月の新刊

早々と7月の新刊情報です。
偶然らしいですが、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」が新訳で早川書房から出るようです。
僕は、ネットで古本探して買ってしまいましたよ(^^; まぁ、無茶苦茶高かったわけでないですから、よいですけど。


07/08
図書館の神様/瀬尾まいこ
筑摩書房・ちくま文庫/¥525

07/上
一九八四年〔新訳版〕/ジョージ・オーウェル
早川書房・ハヤカワepi文庫/¥966

07/16
おうちがいちばん 4/秋月りす
竹書房/¥680

07/17
絶対可憐チルドレン 17/椎名高志
小学館/¥420

07/17
ごきげんな日々/谷川史子
集英社・集英社文庫コミック版/¥630

07/17
外はいい天気だよ/谷川史子
集英社・集英社文庫コミック版/¥630

07/28
中庭の出来事/恩田陸
新潮社・新潮文庫/¥740

07/28
神の守り人(上)来訪編/上橋莱穂子
新潮社・新潮文庫/¥580

07/28
神の守り人(下)帰還編/上橋菜穂子
新潮社・新潮文庫/¥580

07/28
バルサの食卓/上橋菜穂子
新潮社・新潮文庫/¥460

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「1984年」

村上春樹の「1Q84」を読み始めました。
今、上巻の真ん中くらいです。

この本を読むにあたって、おそらく意識されているだろう、ジョージ・オーウェルの「1984年」を読んでみたくて、
本屋さんで探してみました。
ところが、どこの本屋さんにも置いてないんですね。
帰ってからネットで調べてみたら、早川文庫のものは絶版なんですね。
アマゾンのマーケット・プレイスでは、とんでもない値段になってました。
前作「アフター・ダーク」でも「ジョージ・オーウェル風チキンサラダ」なんてセリフがありましたし、
「1Q84」にも、彼の名前が登場してました。
早川さん、これを機に復刊してくれないかしら。
創元SF文庫でもOK(笑)
ちなみに、創元SF文庫で復刊されたばかりの「渚にて」も「1Q84」には登場してました。
小説に出てきたのは、映画の方ですが。

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6月の新刊

久々の新刊情報です。
6月は、買いたい本が多いです。
お亡くなりになったばかりの栗本薫さんの本が2冊発売になります。
グインが読めるのも、あと3冊か……

今日、東戸塚駅前の住吉書房に、村上春樹さんの「1Q84」を買いにいったのですが、
上巻はすでに売り切れてました。
明日、横浜で購入する予定です。


06/10
ドラママチ 角田光代
文藝春秋(文春文庫)¥570

06/10
モノレールねこ 加納朋子
文藝春秋(文春文庫)¥530

06/12
分冊文庫版 邪魅の雫(上) 京極夏彦
講談社(講談社文庫)

06/12
分冊文庫版 邪魅の雫(中) 京極夏彦
講談社(講談社文庫)

06/12
分冊文庫版 邪魅の雫(下) 京極夏彦
講談社(講談社文庫)

06/12
六月の桜 伊集院大介のレクイエム 栗本薫
講談社(講談社文庫)

06/12
本屋の森のあかり 5 磯谷 友紀
講談社 ¥440

06/上
グイン・サーガ127 遠いうねり 栗本薫
早川書房(ハヤカワ文庫JA)¥609

06/19
なんて素敵にジャパネスク 人妻編 8 山内直実
白泉社 ¥420

06/26
機動戦士ガンダム THE ORIGIN 19 ソロモン編・前 安彦良和
角川書店 ¥588

06/26
蜂蜜色の瞳 おいしいコーヒーのいれ方 SECOND SEASON 1 村山由佳
集英社(集英社文庫)

06/26
終末のフール 伊坂幸太郎
集英社(集英社文庫)

06/26
夜の朝顔 豊島ミホ
集英社(集英社文庫)

06/27
きつねのはなし 森見登美彦
新潮社(新潮文庫)¥500

06/27
レインツリーの国 有川浩
新潮社(新潮文庫)¥420

06/30
PLUTO 8 浦沢直樹
小学館 ¥550

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栗本薫さん、ご逝去

作家の栗本薫さんが、ご逝去されたそうです。
「グイン・サーガ」のあとがきでは、ずっと病状について触れられており、なんとかガンと共存していけそうな雰囲気を感じていただけに、突然のニュースに信じられない気持ちです。

一読者のわがままとしては、ぜひ、ライフワークである「グイン・サーガ」だけは、完結させて欲しかったし、
ご本人も、未完の作品を残してあの世に行かれる事を、いかほどにか残念に思っていることでしょう。

僕と、栗本作品との出会いは、「魔界水滸伝」でした。
父親が買ってきた本を、僕が横取りして、その日のウチに読み上げてしまいました。
当時の僕は、マンガばかりを読んでいたのですが、久しぶりに活字の世界に引き戻してくれたのが、この作品なのです。
以降、「魔界水滸伝」「ぼくらシリーズ」「伊集院大介シリーズ」「グイン・サーガ」など、多くの作品を読ませていただきました。中島梓名義の「息子に夢中」「マンガ青春期」「わが心のフラッシュマン」なども、インパクトのある作品で、若き日の僕は、多大な影響を受けたものです。
僕が大学一年生の時に、ご出身の早稲田大学で講演があり、その講演も聴かせていただきました。
グインのあとがきでのネットユーザー批判以降、以前のように情熱を持って作品を読むことがなくなってしまったのは正直な所ですが、それでも、多くのものを僕に与えてくれた作家には違いありません。

昨年、氷室冴子さんが亡くなった時にも同じことを書きましたが、
作家にとって、残した作品のある限り、その魂は不滅だと思っています。
つつしんでご冥福をお祈りするとともに、残された作品群が、この後も多くの読者に読み継がれることを願います。

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「スペース」

4488426042スペース (創元推理文庫)
加納 朋子
東京創元社 2009-05-05

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加納朋子さんの「駒子シリーズ」第3作です。

これまでも、駒子シリーズは大好きで「ななつのこものがたり」まで持っている僕ですが、この作品のおかげで、ますますこのシリーズが好きになりました。

これまで僕がこのシリーズが好きだったのは、話の構成のうまさであり、駒子というキャラクターの可愛らしさであり、ミステリー風味に味付けされた「驚き」だったり「不思議」だったりしたわけですが、今作においては、それに加えて、登場人物の心情への共感と、テーマへの共鳴が加わった感じです。

おそらく、これまでのシリーズの中でも、最も「謎解き」の要素は少ないと思います。
しかし、それは、この作品にミステリーの要素を感じないという意味ではありません。
今回示されたただ一つと言ってよい「謎」を解き明かすその過程こそが、登場人物たちの心情を鮮やかに浮かびあがらせていくことになるからです。

しかし、謎が明かされてから読みかしてみると、そこここにヒントは転がっていますし、最近は同じような手法で書かれた物語もいくつか読んでいるのですが、僕は見事に騙されてしまいました。

さて、本書のもう一つの魅力は、「スペース」と同じくらいの分量がある外伝的な話、「バックスペース」です。「スペース」で語られる駒子たちが一年生の頃のエピソードを、別の登場人物の目でリアルタイムで語った物語です。
駒子は、僕の目から見ると可愛らしい女の子という位置づけですが(『クララ白書』の桂木しのぶと同じようなノリかもしれません)、こちらの語り手の女性は、おそらく、僕と同じタイプの人間です。というより、本が好きな人間には、似たようなタイプ、多いんじゃないですかね。
そして、彼女が、自分の抱えていた悩みをある出会いを通して乗り越えていく姿は、読んでいてとてもさわやかでしたし、自分にもかつて同じようなことがあったなぁと感じさせてくれるものでした。
そして、こちらのラストにも、シリーズ全体に関わってくるような「サプライズ」が用意されています。

解説によると(光原百合さんの解説なんですが、これがまた秀逸です)、最後にもう一作、長編が予定されているとのこと。どうなるか、非常に楽しみです。

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「海の底」

4043898029海の底 (角川文庫)
有川 浩
角川グループパブリッシング 2009-04-25

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有川浩さんの名前は、図書館戦争シリーズなどで知ってはいるものの、基本的に文庫派の僕は、まだ「空の中」しか読んだことがありません。

「空の中」は、異質な思考回路を持つ知的生命体とのコミュニケーションの取り方など、面白いと思った部分もあるのですが、中盤の人格統合の話でやや退屈になってしまったのと、登場人物の内省が多く、ややストーリーの動きが鈍くなってしまった部分があるのが残念でした。

というわけで「海の底」です。
前回が空に現れた未知の生物の話だとすると、今回は海の底から現れた生物の話。
前回が高度な知能を持った未知の生物だったのに対して、今回は少なくともエビだということはわかっているので、やや趣きが違います。
怪物と人間の戦いという恐怖映画的な描写が多くなるとともに、人間側のストーリーに重きが置かれることになったように思います。

警察と自衛隊、そしてアメリカ軍までふくめた縄張り争いと政治的なかけひき。これまで、ことなかれ主義な組織の中で「やっかいもの」扱いされてきた異端児の活躍。怪物に追われて潜水艦に籠城することになった子供たちと若き自衛艦の交流。
さまざまな要素が、物語の中できちんと組み上げられ、テンポよく読むことができました。

文庫本の解説によると、作者の最初のコンセプトは「潜水艦で十五少年漂流記」だったのだそうですが、一人一人の子供の心理と成長が、しっかりと描かれ、その点でも読み応えがあったと思います。
この話でもドニファンタイプの男の子が出てくるのですが、彼も最後にはきちんと成長を見せてくれます。これまで悪役だった人間が改心する場面というのは、どことなくご都合主義的な要素を感じることが多いのですが、この話では、そこも自然というか、むしろ意味のあるエピソードに仕上げていたように思います。

一つだけ難をあげるとするならば、ちょっと既存の作品の匂いを感じさせる部分があること。まぁ、これは、見方によっては「オタクの身内意識」に訴えて面白いと感じさせる部分でもあるんですが…
解説でも「平成ガメラ」に触れていましたが、それ以外にもたくさんありますね。ゴジラとガンダムは、まぁ、登場人物の世代と趣味というとで許すとして(笑)、明石の人物像はどことなくカミソリ後藤を彷彿とさせるし、そういえば、自衛隊の武力行使制限の話も、劇場版の2作目でやってましたね(あえて何の作品の…と書かないのは、オタクの身内意識というヤツです)。

ともあれ、僕の評価は「空の中」よりも数段上で、はっきり言って「オススメ作品」です。おかげで「クジラの彼」の文庫本化が待てなくなるかもしれないじゃないですか…(笑)

最後にちょっとだけ蛇足。
有川浩さんの読者の中には、芹澤博士を知らないのはもちろん、「ガンダムなんてどこに出てきたっけ」という世代(もしくはタイプ)の人もいるかもしれません。
そういう人は、初代ゴジラとガンダム劇場版三部作はぜひ見てみてくださいね。できれば、パトレーバーも(最後にバラしてしまった(^^;)

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「にっぽん入門」

4167579030にっぽん入門 (文春文庫)
柴門 ふみ
文藝春秋 2009-04-10

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柴門ふみさんの紀行エッセイです。
柴門さんといえば「東京ラブ・ストーリー」で有名ですが、個人的には「同・級・生」が好きだったなぁ…。
どちらにしろ、80年代のバブル華やかなりしころのイメージが強いのですが、
最近は、こういう渋い仕事もされてるんですねぇ…。

とは言うものの、日本の文化について深く追究しようとかいう感じの本ではなく、
気軽に楽しく読める感じの紀行文で、有名どころの有名なイベント満載です。
横手のかまくらとか、岸和田のだんじりとか、今の形になったのが戦後になってからだなんて話は
ちょっとびっくりです。

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本日の購入本

ホントは、読んだ本の感想を書かないといけないんですが、
最近、ためる一方なので、買った本だけでも備忘録的に書いておこうかと。

4104560030純情エレジー
豊島 ミホ
新潮社 2009-03

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4575512664エバーグリーン (双葉文庫)
豊島 ミホ
双葉社 2009-03-12

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豊島ミホさんの新刊を2冊。
「エバーグリーン」の方は、単行本が出た時に買ったのですが、表紙が谷川史子さんだったもので、つい(笑)。

4777912930出会いの写真ノート (えい文庫 194)
原 康
エイ出版社 2009-03-10

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4048676636カラー版 基本がわかる!写真がうまくなる! 「デジタル一眼」交換レンズ入門 (アスキー新書)
田中 希美男
アスキー・メディアワークス 2009-03-10

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後は、カメラ関係の本を2冊。

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「夕映え天使」

4104394033夕映え天使
浅田 次郎
新潮社 2008-12

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浅田次郎さんの新作短編集です。
僕は、これまで浅田次郎さんの本はすべて文庫で購入していて、単行本を買ったのは初めてです。
なぜ、今回だけ単行本を買ったのかと言うと、川崎の丸善でサイン本を見つけたからです。
このお店で年末に浅田次郎さんのサイン会が行われたのですが、平日の夜で、僕は仕事中の時間。
絶対に行けなくて悔しい思いをしたのですが、翌日、お店に行ってみたら数冊のサイン本が棚にあるのを発見し、即購入したというわけです。

昭和30年代を舞台にした話とか、定年を迎えるサラリーマンの話とか、もうすぐ時効を迎える殺人犯の話とか、相変わらず浅田節全開です。
「蒼穹の昴」や「シェラザード」などの長編もいいですが、「鉄道員」「ラブレター」など短編の名作を数多く書いている浅田さんらしい作品集でした。

ただ、今までとちょっと違うな、と思ったのはラストに意外性を感じさせるものが多かったかな、と思う所です。
特にびっくりしたのが「特別な一日」。
定年を迎えるサラリーマンの話です。
それは嘘ではないのですが、最後にとんでもないどんでん返しがあります。
久々に「やられた!」と感じるラストでした。

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「キマイラ」

キマイラ 1 幻獣少年・朧変 (ソノラマノベルス)
キマイラ 1 幻獣少年・朧変 (ソノラマノベルス)
寺田 克也

関連商品
キマイラ 2 餓狼変・魔王変 (ソノラマノベルス)
キマイラ 3 菩薩変・如来変 (ソノラマノベルス)
キマイラ 4 涅槃変・鳳凰変 (ソノラマノベルス)
キマイラ 5 狂仏変・独覚変 (ソノラマノベルス)
東天の獅子〈第1巻〉天の巻・嘉納流柔術
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夢枕貘さんの長編小説・キマイラシリーズが、新装版で出版されています。
僕は、朝日ソノラマ文庫版でずっと買っていたのですが、「クラッシャー・ジョウ」の早川書房版で朝日ソノラマがなくなったことを知り、今後はこの新装版でシリーズが引き継がれるだろうということで購入を開始しました。

数年前、ハードカバー版が出た時に加筆修正が加えられているようなのですが、今回1~5巻まで読み返してみて、以前読んだ時より、さらに物語の世界に引き込まれたような印象でした。
もっとも、僕がキマイラシリーズを読み始めたのは相当な昔で、登場よりは僕の読み手としての技量が上がっているでしょうし、もともと夢枕貘さんの長編小説は、まとめて読まないと流れがつかみづらい傾向があるので、必ずしも加筆修正が原因ではないかもしれないですが…

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「夜は短し歩けよ乙女」

4043878028夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
森見 登美彦
角川グループパブリッシング 2008-12-25

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この本は、単行本が出た時から気になっていた本です。
まず、タイトルからして魅力的です。
言うまでもなく「命短し、恋せよ乙女」という大正時代の流行歌のフレーズをもじってのタイトルです。すでに「乙女」という言葉自体が死語ですが、こういう古典的なフレーズをタイトルに使用することを思いつく時点で、作者がどのようなスタンスでこの小説を書こうとしたかがうかがえます。
しかも、「歩く」というシンプルな動作を主題に置いているのが素敵です。
昨今の風潮として、恋愛においてイベントが必要不可欠な要素となっている感がありますが、僕としては、それが恋愛の中心にあるのは違和感がありますし、正直、苦手です。「歩く」というシンプルな行動の中に、様々なドラマがあり、感情のやり取りが行われるかと思うとわくわくするではありませんか。
そういった擬古的な要素は、表紙に描かれるイラストにも見てとれました。大正期を彷彿とさせるような古典的な絵柄が使われているんですよね。
しかも、あちこちの書評ブログでも評判がよく、それも僕が文庫化を楽しみにしていた理由の一つです。

さて、そんなわけで、文庫本が書店に並んだ当日に購入したのですが、期待にたがわぬ良作でした。作中に登場する「黒髪の乙女」の言葉を借りれば「オモチロオカチイ」できごとや、面妖な人物にたっぷり出会えること請け合いです。

タイトルや装丁がそうであったように、やや擬古的でリズミカルな文体ですが、それも読んでいて楽しい要素の一つですが、楽しいのは文体だけではありません。
第1章は「お酒」、第2章は「古本市」、第3章は「学園祭」と、世の中の大学生が、大学生活において体験するだろう楽しいできごとが、並べられています。
主人公の一人である「黒髪の乙女」は、ちょっと天然ボケの気がありますが、好奇心が旺盛で、様々な冒険を繰り広げます。
彼女が自分はそうとは知らないうちに様々な事件に巻き込まれ、たくさんの人と出会い、その好奇心を満たしていく様は、読んでいて気持ちのよいものです。
そして、彼女の冒険を陰で見守り、オロオロしたり、自虐的なギャグをとばしたりするのが、もう一人の主人公である「僕」です。
この二人の恋物語、というより「僕」の片思いの様が、この物語の大きな軸になってはいるのですが、恋愛物の要素よりは、多くの個性ある登場人物に囲まれながら、大学生活を満喫する物語であると認識しました。
ちなみに、彼女が出会う世にも珍しい人々、文物の名を試しにいくつか列挙してみましょう。
「偽電気ブラン」・「詭弁論部」・「閨房調査団」・「韋駄天ゴタツ」・「パンツ総番長」・「プリンセス・ダルマ」…。
このような単語にそこはかとない魅力を感じたならば、ぜひこの本を手にとってみて下さい。
そして、願わくば、彼女に声援を。

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「日暮らし」

406276203X日暮らし〈上〉 (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社 2008-11-14

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4062747510ぼんくら〈上〉 (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社 2004-04

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久々の更新です。
宮部みゆきさんの「日暮らし」全3巻を読みました。
僕は宮部さんの時代物は、全部読んでいるわけではなく、この本の中に昔のエピソードを思い出すシーンがふんだんにあったので、「これは何かの話の続編なんだ」と思い至る始末です。
もちろん、それでも、話が分かりづらくて困ったということはありませんでしたが…

というわけで、すぐに「ぼんくら」の方も読んでみました。

「日暮らし」の方は、推理物として考えると、どんでん返しを狙っているのはわかるのですが、ちょっと苦しい感じがしました。
謎が謎を呼び、ページをめくらずにはいられないという感覚は、「ぼんくら」の方が、より感じたように思います。
でも、このシリーズの魅力は、何といっても登場人物たちの活き活きとした姿。
その点では、「日暮らし」の方に軍配が上がるように感じです。

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「虹の彼方に」

虹の彼方に (集英社文庫)
川上 健一
4087477398

ふたつの太陽と満月と (集英社文庫)
川上 健一
408747609X

風の仲間 (PHP文庫 か 57-1) (PHP文庫 か 57-1)
川上 健一
4569670067


「BETWEEN」が気に入ったので、川上健一さんの小説をまとめて読んでみました。
休筆前の川上さんの作品は、スポーツものが多いのですが、正直「宇宙のウインブルドン」と「ららのいた夏」はあまり良いできではないようです。
どちらも、個性派で無名のスポーツ選手が、なみいる強豪を倒して…というパターンなのですが、話がとんとん拍子に行きすぎて、メリハリがない感じです。

そんな中で、味があるのが、ゴルフを扱った連作短編集。
以前に「風の仲間」を読んでいて、設定の説明の仕方から見て以前からの続編だなと感じたので、読んでみたいと思っていたのです。
何事も、1つのことに打ち込んでいる人には、それを通してその人の背負っているものが見えてくるものですが、
この小説には、そういう要素がふんだんに感じられます。
しかも、登場人物たちが面白い人たちで、「BETWEEN」に出てきた近所の友人たちと近い雰囲気を持っているのではないかと感じました。

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「BETWEEN ノーマネーand能天気」

4087463214BETWEEN―ノーマネーand能天気 (集英社文庫)
川上 健一
集英社 2008-07

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「翼はいつまでも」の川上健一さんのエッセイです。
「翼はいつまでも」は、近年僕が読んだ小説の中でも、十指に入るくらい好きな小説です。
でも、それが川上さんの十年ぶりの小説であったとか、坪田穣治文学賞を取ったとかいう話は、このエッセイで初めて知りました(^^;

このエッセイは、川上さんが小説を書いていなかった十年間の生活を中心に描かれています。
体を壊し、収入がないために田舎で貧乏ぐらし…というと、暗い感じがしてしまいますが、
この本を読む限りでは、そんなことも無いようです。

まず、印象に残るのが、家族の姿。
金銭的に豊かでなくても、家族のために使う時間、家族のことを思う時間の豊かさがあれば、
幸せに生きられるのだなぁということが伝わってきます。
もちろん、物質的にぜいたくな生活ができないこと、自分たちの手足を使ってしなければならないことの多さ、これから先の生活の保障のなさなど、良いことばかりではないでしょうが、そんな中で、自分たちの持っているものを前向きにとらえて生きようと思える心の持ちようというのが、素敵です。
また、周囲の人たちとの交友関係も楽しそうです。もちろん一緒に釣りをしたりゴルフをしたりという遊びの部分というのもあるのですが、生活面でも互いに支え合っているという感じがします。「魔女の宅急便」の「おすそわけ」の話を思い出しました。こういった半自給自足的な生活、「おすそわけ」的な地域共同体のあり方というのは、ちょっと前までは、日本のどこででも行われていたことのはずなんですよね。

最近は、自然志向が強まっているので、それにマッチしているとも言えますが、でも、この本はそういう主義主張とは無関係に、素直に「楽しそうな生活だなぁ」と思わせてくれるところが良いですね。

最後にもう一つ。最後の方では、十年ぶりに書く小説、「翼はいつまでも」の話が出てきます。
あの本が好きな僕としては、あの話がどうやって紡がれたのか、というエピソードにふれることができたのは、幸せでした。

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春日武彦×吉野朔実 トークショー

4757215304精神のけもの道―つい、おかしなことをやってしまう人たちの話
吉野 朔実
アスペクト 2008-07-25

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「精神のけもの道」という本の出版記念トークショーが青山ブックセンター本店で行われました。
著者の精神科医・春日武彦さんと、漫画家・吉野朔実さんに加え、歌人の穂村弘さんがゲストでいらっしゃいました。

春日先生のお名前は、吉野さんの「お父さんは時代小説が大好き」「お母さんは赤毛のアンが大好き」でよく見かけており、精神科医という肩書きと、吉野さんの絵のタッチで、ちょっと固めの人を想像していたのですが、お話の内容も、口調も、かなりくだけた感じで、ちょっと印象が違いました。

穂村さんは、失礼ながら、名前を全く認識していなかったのですが、帰ってから先述の二冊を読み返してみた所、春日先生ほどではないですが、登場なさってました。
そんなわけで、事前の印象は全くなかった穂村さんですが、話の内容は、一番面白かったですね。
春日先生と吉野さんは、思いついたことをどんどんしゃべるという感じの話し方だったんですが、穂村さんは、こういうテーマについて話そうという方向性みたいのを打ち出そうとされていた感じです。

「精神のけもの道」のサブタイトルは、「つい、おかしなことをやってしまう人たちの話」。
おかしなことやってしまうといっても、それは他の人たちから見て「おかしなこと」であって、当人達からしてみると、当人なりのロジックがあるわけです。
ただ、そのロジックが、「常識」とされているものとはずれているため、世間では「異常」と評価されてしまう。で、それを「通常人間が通るのとは違う道」という意味で「けもの道」と呼んでいるわけです。

吉野さんや穂村さんは、自分たちにも「けもの道」的要素があることを自覚した上で、でも、それが「異常」とされてしまうことに、どこか反発、というより危うさを感じている所があるようです。
穂村さんがされていた話の一つに自動車の話がありました。彼が自動車を運転していると「もしかしたらここに子どもが飛び出してくるかもしれない」という不安が、ずっとつきまとう。でも、世の中では、「もしここで子どもが飛び出してきたら間違いなく引いてしまうだろう」というスピードで車が動き回っている。
吉野さんがされていたのは、車内での化粧の話。車内でマスカラを塗っていて、大きく列車がゆれたりすれば、目に棒が入って失明するかもしれない。「失明する可能性がある」という自覚があって、そうなっても構わない覚悟で「化粧する」という選択をするならば構わないけれど、どうもそんな「覚悟」はなさそうだ。

穂村さんは、自分が「けもの道」的な思考で考えていることを世に問うて、世の常識を論破できるほど、はっきりとした形にならないとおっしゃっていました。ただ、そういった要素が常ならぬ力として、普通にはない意味や魅力を作り出す力になってくれることを期待しており、その意味で、他の人の「けもの道」的な部分にも興味を抱いている、ということを話されていました。

それに対して、春日先生は、「けもの道」はあくまで「けもの道」で、それが「常ならぬ力」としてプラスに働くことはほとんどない、というお考えのようです。
穂村さんは、ご自身と春日先生の考え方の違いを自覚されていて、この辺りを春日先生の口から客観的に説明して欲しがっていたようですが、なぜか、春日先生は、口を濁してましたね。
僕のような「吉野朔実ファン」の人間が聴衆に多いだろうと考えて、彼女のマンガを読むような人間の好みそうではない話は避けようということだったのか、それとも、そういう話は本の中に書いたので、そちらを読んでくれればよいだろうと考えたのか、その辺りは憶測ですが…。


さて、トークショー後には、サイン会が行われました。
僕は、現地で購入した「精神のけもの道」に春日先生と吉野さんのサインを頂いたのですが、それだけではなく、20年も前に買った「月下の一群」を持って行き、そちらにも吉野さんのサインを頂きました。
それから、トークショーを聞い、話が非常に面白かったので、トークショー後に穂村さんの本も購入して、そちらにもサインを頂いてきました。
今回購入したのは、エッセイ集だったので、歌集の方も今度探してみようと思っています。

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「クローズド・ノート」

4043886012クローズド・ノート (角川文庫)
雫井 脩介
角川グループパブリッシング 2008-06-25

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雫井脩介さんの本は初読です。
ミステリー系の作家さんらしいので、そういう系統の作品なのかなと思っていたら、
何の虚飾もない、ストレートな作品でした。

もちろん、「隆」という名前が一つの謎かけにはなっているのですが、
僕は、割と早い時期に気づいてしまいましたし、おそらく作者も、あれで読者をびっくりさせようとは思っていないんじゃないでしょうか。
むしろ、香恵がいつ気づくんだろうって、ハラハラしながら見てるという筋書きなのだと思います。

ストレートな作品だけに、登場人物の気持ちに共感できるかどうかが、この本を面白く読めるかどうかのポイントでしょう。
万年筆が、前半の重要なアイテムとして登場するのですが、筆記用具選ぶのに、あんなに迷ってられないよ、って性格の人はイライラするかもしれません。
僕は、筆記用具にこだわる人間ではないのですが、別の道具(カメラとか)へのこだわりはありますので、こだわる人の気持ちはわかるし、同じようなこだわりを持つ人間への共感っていうのもわかるので、割と楽しく読めました。
万年筆は、中学に上がる時だったか、父親に買ってもらったのですが、あんまり使わずに終わったんですよね。
というのも、僕は、かなり筆圧が高いので、万年筆のように筆先をすべらせて書くタイプの筆記具は、合わないんです。

そして、後半。残された日記の中で進行するラブ・ストーリー。
この微笑ましさが、また素敵です。

すごい大仰なエピソードがあるわけではないのですが、小さな微笑ましいエピソードの積み重ねがあり、そして、それを大切に思っている登場人物たちがいる。
そんな物語だと思います。

映画は未見なのですが、ラストシーンで下手に泣かせにかかってたらイヤだなぁ…

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「1日1鉄!」の本

4330999080Rail healing1日1鉄!
中井 精也
交通新聞社 2008-07

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以前にもブログに書いた、中井精也さんのブログ「1日1鉄!」が本になりました。
6月下旬発行予定だったので、ここ数日は本屋さんで必死にチェックしてました。

思ったよりもページ数が少なくて、「ネットで見たあの写真も、展覧会でみたあの写真も、本に載るかしら」と期待していたので、ちょっと残念。
いろんな人に見て欲しいので、値段を抑えたという話を、ブログで書いていらしたので、そのせいだとは思うのですが…。
まあ、でも、一番好きな小湊鉄道の写真(イチョウの木のと、ホームに中学生が並んでるの)が入っていたので、良しとしましょう。

もうすぐ、「鉄道旅情100景」も発売になるはずなので、こちらも楽しみです。

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「北里マドンナ」

4086115182北里マドンナ (集英社文庫―コバルト・シリーズ)
氷室 冴子
集英社 1991-02

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「なぎさボーイ」「多恵子ガール」の続編です。

「多恵子ガール」のところでも書いた通り、僕はこの「北里マドンナ」には、あんまりこだわりがないんです。

その理由は、たくさんあるのですが、1つ目は、前にも書いたように、多恵子ガールのラストの競技場の場面を軽く流されたところです。
で、なぜそうなったのかを考えてみるに、あれほど北里に対抗意識を燃やさせた松宮くんの存在感が、この話にはまったくないんです。松宮くんは、なぎさにとっては多恵子への嫉妬をかきたてる存在ですが、北里にとってはなぎさへの嫉妬をかきたてる存在。その松宮くんに存在感がないことが、北里となぎさの関係が、前2作とは違ってしまっているということを示しているような気がします。

2つ目は、北里と槇修子のからみが、どうもしっくりこないんですね。別に、自分が槇修子が好きだからというわけではないんですが(笑)、二人の間に、二人が結びつく吸引力みたいなものを感じないんです。

3つ目は、これが、たぶん一番大きな理由であるように思うのですが、意識的に作品を「脱・少女小説化」しようとしている雰囲気を、非常に感じてしまうのです。
氷室さんのエッセイ等を読んでいると、世間の「少女小説」に対する目の向け方に、反発を覚える部分もかなりあったようです。もちろん、氷室さん自身に過去の自分の作品を否定するような考えはなかったと思いますが、世間に対して突っ張ってみせた部分があったのではないかと、勝手に拝察する次第なのであります。
北里の中2の時の話(とっぽいなぎさに先を越されたと思ってくやしかった話はどこに行ったんだ!)とか、不自然にアルコール類が登場してみたりとか…
もちろん、「恋する女たち」みたいな作品もあるわけですから、そういう俗な部分がないのが氷室作品というわけでもないのですが、「なぎさボーイ」の世界観には合わないんじゃないかな、と思うわけです。

他にも、ハードカバーでは表紙だけは渡辺多恵子さんの絵だけど、本文イラストが全然入ってないし、文庫本では別の人の絵に変わってしまうし……。なんでこの本だけハードカバーがあって、前二作はハードカバーにしてくんないんだとか……まあ、色々とありまして。なんか、シリーズでこの本だけ、ちっとも誉めてないですね(^^;

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「多恵子ガール」

4086107198多恵子ガール (集英社文庫―コバルト・シリーズ)
氷室 冴子
集英社 1985-01

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というわけで、次は「多恵子ガール」です。
「なぎさボーイ」の続編というより姉妹編です。
物語の時制がかなり重なってますしね。

同じ場面を多恵子の側から見るとこんななのかってのは、凄く新鮮でしたし、正直、驚きでした。
人間の主観ってのは、おそろしいなぁと思いましたね。
僕は、「なぎさボーイ」のところで書いたように「槇修子派」なので(笑)、「多恵子ガール」にものすごく思い入れがあるというのではないですが、それでも、多恵子が修子に感じる嫉妬のやり切れなさには、すごく共感できる部分があります。

「こんな時、どうして〝好き〟って言葉はこんなに軽いんだろう。
 特別な人間というのが、どうしてこんなに重いんだろう。」

「でも、なぎさくん。
 それはあたしがなりたかった。
 誰よりも、なぎさくんがわかる人に、なりたかった。槇さんよりも、北里くんよりも。中学一年の時から、そう思ってきた」

こんなフレーズが特に好きなんです。

後、ラストは好きです。
特に、松宮くん。
なぎさとは多恵子を取り合うライバルなのに、なぎさに対して一番気を遣ってるんじゃないかと思う心配り。
彼は、多恵子に、「なぎさがどうして自分を殴ったか、聞いてごらん」というようなことを言うわけですが、あの台詞は奥が深い。
なぎさには、自分が松宮に嫉妬したことを思い出させて、嫉妬というものがいかに苦しいものであるか、ということ理解させ、多恵子に優しくしてやれよと諭しているわけです。
多恵子に対しては、なぎさは君の気持ちを分かってくれるよ、とさりげなく後押しをすると共に、二人がそのことについて話をするきっかけまで提供してあげているわけです。
僕は、この場面で北里が松宮に怒っている理由は、ここにあるんじゃないかと邪推してたんです。
多恵子が来る前に、松宮がなぎさにその手の話をしていて、それを北里が聞いていたんじゃないかと。
もしくは、もっと直接的に「どうしてなぎさを助けてやんないんだ」みたいなことを言われたとか。あの頃、北里はなぎさにいらん嘘をついてなぎさのご機嫌を損ね、機嫌を損ねられていることにイライラして、なぎさを助けるなんて雰囲気じゃなかったですからね。
僕が「北里マドンナ」が苦手な理由はいくつかあるのですが(それはまた改めて書きますが)、その中のかなり大きい一つが、この場面をあっさり流されたことです。

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「なぎさボーイ」

4086106892なぎさボーイ (集英社文庫―コバルト・シリーズ)
氷室 冴子
集英社 1984-09

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ここ数日、氷室冴子さんの小説を読み返しています。
「恋する女たち」「少女小説家は死なない!」「蕨ヶ丘物語」なんかも読み返しましたが、何といっても思い入れが深いのは、「なぎさボーイ」です。

そもそも、僕が氷室冴子さんの小説を読むようにきっかけが「なぎさボーイ」でした。
僕は、幼少期には本をたくさん読んだ記憶があるのですが、中学・高校の時期には、小説の熱心な読者ではありませんでした。どちらかというと、マンガ主流で。
そんな僕でしたが、父親の買ってきた「魔界水滸伝」で栗本薫さんを知り、そのあとがきで新井素子さんを知り、コバルトへたどりついたように記憶しています。
時に1984年。本屋さんで平積みになっていたある本の表紙に、僕の目は釘付けになりました。肩をそびやかし、そっぽを向いている男の子。渡辺多恵子さんの描いた「なぎさボーイ」の表紙です。
さっそく購入して読み、一読で惚れ込みました。以後20年以上、何度読み返したか数えきれません。

僕がこの小説を気に入った理由の1つは、主人公である雨城なぎさくんのキャラクターです。というのも、僕も背が低く、童顔で、それを気にしている面がありました。小学校の時には、前髪を切りそろえると女の子とまちがえられそうという理由で、わざとギザギザの前髪にしてもらっていたくらいなのです。
プライド高いくせに小心者であるという彼の性格も、僕によく似ていました。

ただ、それよりももっと大きいのは、この物語での「恋愛」の描かれ方です。
なぎさくんは、この物語の中で、二人の女性を好きになり、その間でゆれ動いています。中学校からの同級生で、仲良しグループの一員でもある原田多恵子。陸上競技会で一緒になり、走ることへのこだわりの中に、自分と同じ思いを感じている槇修子。
槇修子となぎさくんが過ごした時間は、二年間で二日だけです。実質は、ほんの数時間というところでしょう。でも、この時に修子が過ごした時間には彼女の想いがたくさんつまっており、その濃密な想いのやりとりが、二人をつなげているわけです。恋愛うんぬんを抜きにしても、そんなふうに想いの凝縮した時間を持てることが素敵だと思いましたし、それを他の人間と共有できるのはどんなに幸福なことだろうと思いました。さらに、それが恋へとつながっていくとすれば…。
だから、「なぎさボーイ」の時には、僕は断然「槇修子派」でした。
なぜなら、僕自身が、当時、そういう相手を好きだったからです。いや、違いますね。僕が、槇修子の立場だったのです。つまり、自分が精一杯生きた時間を、相手に受け止めてもらえたんじゃないかという喜びを知る一方で、自分にとって相手が大事であるほどは、相手にとって自分は大事ではないという悲哀も味わっていたのです。

さらに、なぎさくんは、二人の間で悩みながら、自問していきます。「どうして自分は槇に惹かれるのか」「どうして多恵子に惹かれるのか」「二人に対する好きという想いはどこがちがうんだろう」…。
その答えを見つけるために彼は苦しみ、そして、その苦しさの中で「雨城なぎさとはどんな人間か」ということを発見していきます。
1984年当時、僕は浪人生でした。ウチの学校は浪人する率が割と高い(僕を含めて5人のグループのうち4人も浪人してたというのは、どんなグループだったんだ!という気もしますが)ので、大学に落ちたこと自体はそんなにショックなわけではなかったのですが、「はっきりとした所属がない」という状況は落ち着かないものがありました。要は「自分って一体どんな人間なんだろう」って考えざるを得ないんですよね。

そんなわけで、僕は、この本を読みながら、僕は「自分の恋はどんな恋なんだろう…」「自分とはどんな人間なんだろう…」ということを度々考えてきました。
時に、物語の中の登場人物に感情移入することによって。時に、物語に自分の経験を重ねることによって。
そうやって、僕も、僕とはどんな人間なのか、を発見していったのです。

もうおわかりだと思いますが、僕にとって、この本は「面白い」とか「面白くない」とかを越えた存在です。
おそらく、この作品に出会っていなかったら、僕という人間は、今とはちがう人間になっていたでしょう。
まさに「運命の一冊」なのです。

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告別式

氷室冴子さんの告別式に参列してきました。
一読者に過ぎない僕が、どこまで踏み込んでよいやら戸惑う部分もあったのですが、偶然にもお休みの日に当たったことにも背中を押され、思い切って早稲田まで出かけました。

事前にmixiのコミュを覗いたら(僕は参加してはいないのですが)、読者のための献花台が設けてあるとのことだったので、もしかしたらそこにお参りするだけで、中には入れないかなとも思っていたのですが、特に制限をかけている様子もなく、逆に案内の方に「こちらへどうぞ」とうながされるままに、会場へと入りました。
建物の中に入ると、入り口には花を送られた方々のお名前を記した札がならべてありました。あまりしげしげとは見なかったのですが、藤田和子さん、山内直実さん、香川祐美さんといったマンガ家の方々のお名前や、歌手の中島みゆきさんのお名前もありました。
そして、そのお隣では、ありし日の氷室さんのお写真を集めたDVDの映像が…。それを見ると、2005年ごろから闘病生活がはじまっていたようです(後で施主の方もご挨拶の中で、3年間の闘病生活とおっしゃっていました)。

9時30分に開会。読経の後、葬儀委員長の菊地秀行さんの弔辞、そしてご焼香となりました。菊地さんの弔辞によると、氷室さんは闘病生活を送りながら、自らの墓地を用意し、葬儀の概要もお決めになったそうです。自らの死と向き合い、その生を全うされようとした姿は、僕の思う氷室さんの生き様そのままだったように思います。
ご焼香の時に、棺の安置してある部屋に入れていただいたのですが、その部屋にいらしたのは20人くらい。ごく親しい間柄の方々だけだったのでしょう。仰々しい花輪もなく、霊柩車も飾りのない黒塗りのライトバン。そんな葬儀の有り様も故人のご遺志だったにちがいありません。

出棺を見送ったのは、200人ほどだったでしょうか。僕は、その後、献花台の方にもまわり、そこに置かれた氷室さんの写真と、供えられた花束にしばしの黙祷をささげてきました。
献花台には、黄色いレモンが二つ。きっと「恋する女たち」が好きな人が置いたんだろうな、なんてことを考えていました。


僕は、生前の故人と面識があったわけではないので、彼女の死によって「何かを失った」という感覚がそれほど大きくないというのが正直な所です。
mixiのコミュや日記の書き込みでは、「もう銀金の続きが読めないと思うと…」「もうジャパネスクの続きが読めないと思うと…」とおっしゃる方もいるので、僕の感覚を一般論として語るつもりはありませんが、極端な話、紫式部の作品は死後1000年近くたっても残っているわけで、そういう意味で、作家の存在というのは「死」に左右されない部分も大きいのではないかな、と思ってしまうのです(前回の日記でも、僕がそう感じていることはおわかりいただけるのと思うのですが)。
そんな僕が、氷室さんの告別式に参加したかったのは、一つには、素晴らしい作品を残してくれた氷室冴子という作家に対して、少しでも感謝の気持ちを捧げたかったということと、もう一つは、僕自身にとって彼女が特別な存在であることを自分の中でより強固にしたかったからなんじゃないかな、と思っています。
そんな人間が、告別式に参加していいのかな、という引け目は僕の中にあって、今でも、果たしてこれで良かったのかな…と思う部分があります。
でも、僕の独りよがりかもしれませんが、氷室さんならそんな僕のわがままを許してくれそうな気がするのです…

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氷室冴子さんが…

作家の氷室冴子さんがお亡くなりになったそうです。
「なぎさボーイ」「多恵子ガール」は僕の生涯最も愛する作品です。
これは、おそらくこれから先も変わることはないでしょう。
最近、めっきり本が出なくなり、どうされたのかと思っていたのですが……
心から冥福をお祈りします。

とはいえ、作家の魂は「作品」として残るもの。
氷室さんの「魂」が、いつまでも我々と共にあり続けることを祈っています。

というのも、氷室さんの書いた「少女小説」は世間では低い評価をつけられがち。
「なぎさボーイ」はとうの昔に絶版です。
「なんて素敵にジャパネスク」「クララ白書」もいつまで読めることか。
悲嘆の涙にくれるより、「氷室さんの小説は素晴らしい!」と声を大にして叫ぶことが
僕にできるせめてものことかと思っています。

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「カレーライフ」

4087477789カレーライフ (集英社文庫)
竹内 真
集英社 2005-01

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「自転車少年記」の竹内真さんの本です。
ずいぶん前に文庫になっているようですが、ノーチェックでした。文庫のフェアで平積みになっているのを発見して読んでみました。

自転車少年記が、自転車を通して人々との出会いを描いていたように、カレーライフは、カレーライスを通して人々と出会う話です。
その点では両者はよく似ていますし、様々な人達との出会いによってそれまで知らなかった知識・価値観に出会って世界が広がっていく展開や、自分は何がしたいのか、自分ができることは何なのか、という自分を発見していくストーリーになっていく点でも同じです。

ただ、カレーライフの方は、より「肉親」という部分に力点が置かれている感じです。
幼い頃に一緒にカレー屋を開こうと約束した従兄弟たちを訪ねて回るのが、ストーリーの骨組みになるのですが、その過程で、自分たちの「原点」を発見していくことになるのが、この小説の醍醐味です。

自分自身の経験を振り返っても、従兄弟たちというのは、お正月とか夏休みとか、ある種の特別な時間を一緒に過ごしたわけで、常に一緒に過ごしてきた親や兄弟とは、また違った特別な存在になっているなぁと感じます。
そんな感慨を共有できる方には、特にお薦めです。

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「満員電車がなくなる日」

4827550298満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う
阿部 等
角川SSコミュニケーションズ 2008-02

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僕は、満員電車がきらいです。
僕の仕事は、昼出社→真夜中帰宅という時間帯で動くことが多いので、幸いなことに朝の通勤ラッシュの時間帯に電車に乗ることは滅多にありません。たまにその時間帯に電車に乗ると、本当にうんざりし「世の中のサラリーマンは、よくこんなことに毎日耐えられるよな」と感心してしまいます。
大学時代には、その時間帯に上り電車に乗らなければならなかったので、混雑する東海道線を避けて、時間のかかる京浜東北線を使っていたくらいです。

この本は、そんな満員電車をなくすためにはどうしたらよいかというアイディアをまとめた本です。
例えば、現在の信号式ではなくGPSを使った列車制御システムで運転間隔を短くするとか、二階建て車両を導入するとか、カーブのカント量を調整できる仕組みを作って列車の速度を上げる、といった方法が提示されています。
こういった仕組みは理屈の上では成り立つのでしょうが、僕は、実際に運用するとなると難しいだろうな、と感じます。というのは、鉄道の運行は順調な時ばかりではなく、悪天候の時やトラブルが起きた時の処理などを考えると、ある程度の余裕は必要だと思うからです。
筆者の考えるように鉄道の輸送力が上がり、それを前提に人口の移動が現在以上に増加することになったら、一度トラブルが起きた時の影響は今以上に大きくなってしまうはずです。

そんな中で、僕が「なるほどな」と思ったのは、鉄道の運賃についての話です。
鉄道は公共性が高い乗り物であるがゆえに、運賃を不当に低く抑えられ続けてきたと、筆者は主張します。そのため、需要に見合った設備投資が行えないのだ、と。さらに、需要の高いラッシュ時とそうでない時で運賃が同じなのも、座席に座っている人と立っている人が同じ運賃であるのも、受益者負担という経済原則から考えるとおかしいではないかという訳です。
最近はICカードが普及してきたので、時間帯や座席によって料金を細かく変えることが可能になっています。そのしくみを利用すれば、ラッシュ時の鉄道運賃を値上げして利益を確保したり、高額な運賃をさけて時差通勤をする人を増やしたりすることも期待できるわけです。

もっとも、僕が考えるに、満員電車をなくすために一番よいのは職住近接です。電車に乗らなくても仕事にいけるのが一番楽ですし、エネルギー消費も少なくてすみます。
東京一極集中を緩和し、周辺の地域の東京への依存度を下げていくようにしなければ、今の状況は改善できないだろうと思います。

鉄道は、近年自動車に押されて、交通機関としての地位が低下しているといわれています。しかし、環境負荷の少なさやバリアフリー化のしやすさ、自分で車が運転できない高齢者でも利用可能なことなど、今後、鉄道の活躍の場が広がっていく要素は大きいですし、僕もそうなるべきだ考えています。
ただ、都心へ向かう通勤列車の問題と、都市部の近距離輸送の問題、地方の鉄道の問題は、それぞれ分けて考える必要があるでしょう。
僕が鉄道に期待する役割は、都市部の近距離輸送と地方の輸送、さらに付け加えるならば長距離の旅客および貨物輸送です。
満員電車については、高い料金をとって快適な乗車空間を作り出すアイディアには賛成ですが、それは鉄道のインフラを整備するためではなく、中距離の人口移動の絶対数を減らすきっかけにする、という方向の方が健全であると思っています。
その根本的な部分の考え方が違うので、興味のある分野の話であるにも関わらず、もう一つ納得しきれませんでした。

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「hanaの東京ご近所写真散歩」

4777909271hanaの東京ご近所写真散歩
hana
エイ出版社 2008-01-10

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ルミネ横浜の有隣堂でみかけて購入しました。
「お散歩写真」「日常の風景」といった系統の写真って、最近増えているような気がします。デジカメの普及で、旅行とか行事とかではなく、日常的に写真を撮るという行為をするようになった人の層が広がったためかもしれません。写真集や雑誌だけではなく、ネットへの写真のアップもさかんですしね。

僕も家の近所の写真をけっこう撮る方ですが、自分自身の視線の記録としてならともかく、人に見せる意味のある写真となると、かなり難しい気がします。

あまりに普通すぎる風景は、自分にとってもすぐに記憶の奥底に忘れ去ってしまうものになってしまうでしょう。
あくまでも僕個人の好みの問題ですが、文章でも写真でも、対象が「普通」であるのに、それにフィルターをかけたり、虚飾をほどこしたりすることによって「特別」に仕立てる事は好きではありません。「普通」の中にうもれてしまいがちな「特別」を拾い上げることは、結構好きです。その両者の区別ってなかなか難しい所がありますよね。

また、その人にとっての「日常」が、僕から見てすでに「日常」でない場合もあります。
僕が住んでいるのは東戸塚という所なのですが、写真の題材を探して散策しているうちに、住み始めた時に思っていたよりも、農地が残っていたり史跡があったりすることに気づいてきました。
そこで、「里山」なんてことにも以前よりは関心を持ち始め、そういう系統の写真集をパラパラとめくてみたりするようにもなりました。「里山」というのは、人間が自然を継続的に使用することによって成り立っている半自然的な状態だと僕は思っているのですが、写真に撮られるような「里山」は、かなり伝統的な日本の村落の様子を残している地域のものです。ある程度都市化が進んだ地域に住んでいる人には、同じような自然への関わり方はできない写真になってしまっていると思うのです。

ですから、撮影者と鑑賞者の両方に意味があって、しかも面白いと感じる写真というのは、かなり珍しいと言っていいのかもしれません。

本の話というよりは、写真論みたくなってしまいましたが、そういう難しさのある中で、この写真集はなかなか楽しんで見ることができました。
写真だけではなく、エッセイ的な文章がところどころに挟まっているのも好印象につながっているかもしれません。

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「空中ブランコ」

4167711028空中ブランコ (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋 2008-01-10

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「イン・ザ・プール」の続編です。
「イン・ザ・プール」を読んだ時には、それほど良いとは思わなかったので、あまり期待せずに読んだのですが、今回はかなり面白く読めました。
もしかして、前作を読んだ時は面白さを見逃していたのではないかと心配になって、前作を読み返してしまったくらいです。

読み返した結果、やっぱり今作の方が面白いという結論に達しただけだったのですが、そのおかげで、前作との違いがよくわかった気がします。

まず、伊良部の性格や行動がかなり変わりました。前作では別れた妻を口汚くののしったり、ライバルの医者にいやがらせをしていたりしたわけですが、そういう粗暴さというか下品さがなくなった気がします。ちょうど「男はつらいよ」で、最初は粗野なやくざ者だった寅さんが、後半では変わり者ではあるけれどもやさしいおじさんに変化したのと同じようなものなのかな、と思います。

それに、作中で描かれる患者さんの姿が、前作では面白みを強調するような形でデフォルメされていたと思うのですが、今作では哀愁を感じさせるような描き方に変わっていた感じです。

それに関連して、患者さんと関わる人々の描き方にも変化が見られます。前作では、患者さんの周囲の人々は、彼らと対立していたり、関係が希薄であったりしたと思うのですが、今作ではそうではありません。苦しむ彼らに同情したり、一時期は対立してはいても、後でその絆を取り戻したりと、その人間関係の温かさにほろりとさせられる部分が多々ありました。

これで、第3作「町長選挙」の文庫化が楽しみになりました

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「モスラの精神史」

4062879018モスラの精神史 (講談社現代新書)
小野 俊太郎
講談社 2007-07-19

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モスラというと、ゴジラ映画に出てくるサブの怪獣のようなイメージですが、実は最初は単独で主役を張っている怪獣です。
僕もその映画は何回か見ているのですが、他の怪獣映画に比べて、特にインパクトを感じたということは、残念ながらありませんでした。
モスラはなぜか怪獣たちの中でも強い方とされていて、唯一ゴジラに勝ったことのある怪獣なのですが、何か特徴的な攻撃力があるわけでもなく、どうも「強い」とか「怖い」とかいう印象にならないんですよね。

この本では、僕が感じていたように「なぜ、さほど強くない蛾という昆虫が怪獣となるのか」という疑問に関しても触れているのですが、僕がこの本を手に取った時は、こういった「映画の解釈」に期待した部分が大きかったわけです。
もちろん、この本は、物語の内容を分析するという方向から書いている部分もあるのですが、そこにはあまり力点が置かれていないようです。

この本で軸となっているテーマは、3つあると思います。
1つは、中村真一郎・福永武彦・堀田善衛が手掛けた原作についての話です。純文学の書き手であったこの3名が、怪獣映画の原作を書くことにどんな意義があったのか。また、原作と映画を比べることにより、そこに込められたメッセージにどんな違いが生まれたのかといった点にも触れています。
2つ目は、映画史における「モスラ」の位置付けです。先行する「キングコング」「ゴジラ」との類似点や相違点を指摘し、そこにどんな意味があるかを考察しています。さらに「モスラ」で描かれたテーマが、その後の映画の中でどのように扱われていくのかという点に触れ、モスラの後継としてかなり意外な(しかし言われてみればなるほどと思う)映画の名前が出て来ます。
3つ目は、そのような映画が作られた社会情勢の考察です。モスラが作られた時代がどのような時代であったのか。また、作り手たちのどんな経験が映画に反映されているのかを知ることは、その映画がどんな映画であるのかを理解する上で、重要なことであると改めて思いました。

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「BLUE MOMENT」

4096820237BLUE MOMENT
吉村 和敏
小学館 2007-12-13

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以前に写真展を見に行った
吉村和敏さんの「BLUE MOMENT」が写真集になりました。
本屋さんでも平積みになっている所が多くて、目立ってます。
写真展で見た時から、ケベックの街並みを対岸から写した写真が気に入っているので、
その写真を手元に置けて幸せです(^^)
印刷の質へのこだわりは吉村さんのブログに書いてありましたし、
個人的には製本の丁寧さが良いなあと思ってます。
その分、ちょっと高めの3000円ですけど…

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「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか 」

4062879182日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか (講談社現代新書)
内山 節
講談社 2007-11-16

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キツネにだまされた、という話は、日本の昔話ではあたり前のように存在します。現在ではどうでしょうか? 童話的な文脈では違和感を感じなくても、現実としてそういうことがあると信じる人はあまりいないのではないかと思います。
筆者は、人々の間でキツネにだまされたという話が新しく聞かれなくなったのは、体験的に1965年ごろではないかとしています。そして、どうしてそういう変化が起きたのか、という原因を、各地の人々の話ももとにして、さまざまな角度から推理しています。

まず、キツネにだまされた、という話が1960年代まで現実の話として存在していた、という点が僕にとっては驚きでした。僕のイメージでは、キツネが人を化かすのは昔話の中という感じで、江戸時代、もしくはせいぜい明治時代くらいまで、という所でした。
とは言っても、日本の文明の進歩の遅さをマイナスにとらえたというわけではありません。むしろ、人々の変化の急激さ、「たかだか数十年でこんなに変わってしまったのか」という驚きを感じたのです。そして、今自分たちが考えている常識は、たかだか数十年の歴史しかないこと、それを絶対的なことと信じがちな危うさを再認識した次第です。

1960年代といえば、いわずとしれた高度経済成長期ですが、そのために起きた社会的な変化について、ある程度は認識しているつもりでした。しかし、その変化を、森林経営・村落協同体・自然観・生死観といった所まで広範囲に、かつ精神的な変化にまでふみこんで解説した本は、これまでなかったように思います。

この本は、日本人がキツネにだまされなくなった原因を考えることに題材と取っていますが、そこからさらに「歴史」というものをどう捉えるかという問題へと論が進められています。
「過去にキツネにだまされることが人々が認識してきた」という歴史を、人々がどう捉えるか、という問題です。
そして、「社会は歴史と共に発展するものである」という認識自体が、西洋的な歴史認識によって作られたものにすぎないこと、我々の認識が「知性」に片寄っており、身体的なもの、感覚的なものといった知性では認識しきれないものを、軽視する部分があるのではないかということを指摘しています。

地球環境についての関心が高まり、自然と人間の関わり方について論じられる機会は、以前に比べて高まっていると思います。自然保護のあり方、里山との付き合い方、地域協同体のあり方など、具体的な方法論が語られているわけではありませんが、さまざまな命題への示唆が得られる一冊だと思います。

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「リピート」

4167732025リピート (文春文庫 い 66-2)
乾 くるみ
文藝春秋 2007-11

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乾くるみさんの本では、以前「イニシエーション・ラブ」を読んだことがあります。
80年代を舞台にした青春小説とおもいきや、最後にとんでもない仕掛けがあるという小説でした。

今度の「リピート」はタイムトラベルもの。僕はタイムトラベルものはかなり好きなので、前作も面白かったことだし…ということで購入しました。

タイムトラベルものには、例えば、過去をすでに知っているという利点を使って競馬とか株で大もうけするとか、うっかり過去を変えてしまったためにタイムパラドックスが起こるとか、ある意味お約束の要素がいくつかあります。
この小説でも、最初の方では、そういったタイムトラベルものの定石をふまえたような展開を見せているわけなのですが、後半、実際にタイムトラベルを経験して以降、それがどんどんとくずされていってしまうのです。
タイムパラドクスを扱う場合、非常におおざっぱに言って、過去は改変できるものであるということを前提しているものと、タイムトラベル自体が過去に組み込まれたもので、過去は改変できないものであることを前提としているものとがあります。
この物語では、過去は改変できる、そして、改変された歴史がパラレルワールドのように存在するという解釈になっています。
しかし、過去を大幅に変えてしまうと、以前の時系列で体験したことはまったく参考にならなくなるわけで、タイムトラベルをした人間のメリットは消滅してしまいます。
この物語では、そんな風に、かつて経験した過去とは別の体験をしていく、先の読めないスリリングな展開を見せていきます。こんな切り口でタイムトラベルを扱った物語は今まで読んだことがなかったので、新鮮な感覚でした。
でも…。実は、最後には、やっぱりタイムトラベルものの定石に戻っていく…という展開になるのです。しかも、その戻り方も、意外性たっぷり。
登場人物に深く共感できたり、という部分はあまりないのですが、そのスリリングなストーリー展開は見事という他ありません。僕はどちらかというと展開のスリリングさよりも、共感の部分を大切に読むタイプの読者なのですが、それでも、この本は印象に残りました。

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「天使の梯子」

4087462218天使の梯子 (集英社文庫 む 5-19)
村山 由佳
集英社 2007-10

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村山由佳さんのデビュー作「天使の卵」の続編です。
僕は村山さんの小説はほぼ読んでいると思うのですが、「天使の卵」には、あまり思い入れがありません。もちろん、おおまかな筋立ては覚えているのですが、今回続編を読んでいても、具体的な場面が思い浮かんできて、懐かしさを感じる、などということは一度もありませんでした(^^;)

前作から10年後、夏姫の恋人である古幡真一を語り手として物語は始まります。彼は夏姫の過去も、歩太が何者であるかも知らない所から始まりますから、僕のように前作のことを曖昧にしか覚えていない人間にとっては、うってつけの語り手といえます。やはり当人たちの追憶という形で描かれてしまうと、彼らにとっての既知の情報を自然な形で読者に提供するのは難しいと思いますので…。
また、慎一の存在は、読み手が歩太や夏姫の心情を理解する手助けをしてくれます。というのは、彼は親代わりに自分を育ててくれた祖母を亡くしているのですが、彼女が亡くなる間際に交わした会話を、ずっと後悔し続けているのです。歩太たちの経験したことというのは、ある意味エキセントリックな、普通の人が誰でも経験しているということがらではないでしょう。しかし、慎一の経験というのは、かなり普遍性のあるものなのではないでしょうか。彼が自分の経験と重ね合わせながら、歩太や夏姫を理解していく時、それと協調する形で、読み手も彼らを理解できる形になっているように感じました。

内容的には、自分の犯してしまった罪を抱えて生きること、そして、他人の罪を許すこと。この二つの命題を抱えた人々の苦しみとそこからの解脱を、情緒的に謳い上げた作品になっていたと思います。この「解脱」という所がポイントで、「苦しみ」の方をメインに描く作品は多いですし、僕は安易な「泣かせ」のようで好きではありません。しかし、そこから、どう自分に折り合いをつけて前を向いて生きていこうとするのかという心情が描けている作品というのは、稀有な存在だと思います。この作品の場合には、自分の「罪」という要素だけでなく、「過去の束縛」というもう一つの要素を抱えており、この点でも個人的な評価が高いです。歩太・夏姫・慎一の三人が、夜の縁側で桜を見上げながらお互いの心情を吐露する場面は、非常に印象的でした。

この本を読み終えた後、「天使の卵」も読み返してみたのですが、やはり今作ほどの共感は感じませんでした。文章自体は悪くないと思うのですが、文章にしめる心理描写の要素がかなり少なく、登場人物への共感を呼び起こすには力が足りないように感じました。歩太などは、今作の方が数倍魅力的なキャラクターに感じました。それは、彼自身の10年の成長のためであるかもしれませんが…
いずれにしろ、「天使の卵」を読み返したことで、村山由佳という作家のがこの10年にとげた「進化」を垣間見たように思います。

僕は、村山作品の中では「海を抱く」(感想はこちら)が最も好きなのですが、二番目に好きな作品の地位は、この作品が占めそうな雰囲気です(しばらくして再読してみなければ確定はしませんが)。「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズが好みという方は、また違う印象を持つかもしれませんけれど…

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11月の新刊

11月の新刊です。
「いま、会いにゆきます」は単行本で持っているので、自分では購入しないと思いますが、未読の方にはお薦めの一冊です。
「グリーン・レクイエム/緑幻想」は、「グリーン・レクイエム」と「緑幻想」の2編を一冊にまとめた本のようです。個人的には1冊目の方が好きなんですけど…。


11/06
いま、会いにゆきます/市川拓司
小学館/小学館文庫/¥600

11/09
リピート/乾くるみ
文藝春秋/文春文庫/¥860

11/13
のだめカンタービレ 19/二ノ宮知子
講談社/¥410

11/上
グイン・サーガ117 暁の脱出/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA /\567

11/上
グリーン・レクイエム/緑幻想/新井素子
東京創元社/創元SF文庫/\987

11/15
聖者の行進 伊集院大介のクリスマス/栗本薫
講談社/講談社文庫

11/16
絶対可憐チルドレン 11/椎名高志
小学館/\410

11/22
聖なる花嫁の反乱 1/紫堂恭子
講談社/\580

11/26
機動戦士ガンダム THE ORIGIN 16/安彦良一
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/\588

11/30
PLUTO 5/浦沢直樹
小学館/\550

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10月の新刊

今さらながらですが、10月の新刊です。
すでに発売されているはずなのに、書店で気づかず、未購入のものがありました(^^;


10/04
オサムシ教授の事件簿 5 (完)/山口よしのぶ
集英社/¥580

10/05
七人の役小角/夢枕摸
小学館/小学館文庫/¥590

10/05
天空聖龍~イノセント・ドラゴン~ 4/山口美由紀
白泉社/¥410

10/10
ボーイズ・ビー/桂望実
幻冬舎/幻冬舎文庫

10/10
対岸の彼女/角田光代
文藝春秋/文春文庫/¥540

10/上
グイン・サーガ116 闘鬼/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/¥567

10/11
最後の願い/光原百合
光文社/光文社文庫

10/16
文庫版百器徒然袋一風/京極夏彦
講談社/講談社文庫

10/17
釣りキチ三平 平成版 9/矢口高雄
講談社/¥570

10/19
天使の梯子/村山由佳
集英社/集英社文庫

10/30
日傘のお兄さん/豊島ミホ
新潮社/新潮文庫/¥540

10/下
ウッド・ノート 1/小山田いく
ブッキング/¥2415

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「走ることについて語るときに僕の語ること」

416369580X走ることについて語るときに僕の語ること
村上 春樹
文藝春秋 2007-10-12

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村上春樹さんの新刊です。
春樹さんが、フルマラソンを何度も走っているランナーであることは、エッセイを読んだことのある読者であれば知っていると思いますが、この本は「走ること」をテーマにまとめたエッセイです。

とは言うものの、春樹さんのいつものエッセイとはかなり趣きが違っています。
僕の個人的な見解ですが、小説の時の春樹さんとエッセイの時の春樹さんは、文体も内容もかなり違っていて、エッセイの方は、やや軽妙な印象を持っています。
しかし、この本では、走ることを習慣的に始めるようになったきっかけや、走りながら何を考えているか、走ることが自分にとってどんなことであるのか、ということを、かなり突き詰めて考えているように思います。
そして、「走る」ことと「書く」ことの間にある共通性にも触れており、作家としての姿勢をも示している内容になっていると感じました。
ですから、「エッセイ的な村上春樹ではなく、小説的な村上春樹に近いな」と思いながら読んでいました。

僕が感じたことは、まんざら思いこみではないらしく、この本の後書きとして書かれている文章に、以下のような一節がありました。
「僕はこの本を『メモワール』のようなものだと考えている。個人史というほど大層なものでもないが、エッセイというタイトルでくくるには無理がある。前書きにも書いたことを繰り返すようなかたちになるが、僕としては『走る』という行為を媒体にして、自分がこの四半世紀ばかりを小説家として、また一人の『どこにでもいる人間』として、どのように生きてきたか、自分なりに整理してみたかった。」

村上春樹のファンを自負する人から、村上春樹ってどんな作家なんだろうという人まで、楽しんで読める本なのではないかと思います。

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「農ある人生」

4121019024農のある人生―ベランダ農園から定年帰農まで
瀧井 宏臣
中央公論新社 2007-06

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僕は、ここ以外にもいくつかブログを持っているのですが、その中に「ふぉとらいふin東戸塚」というブログがあります。
地元・東戸塚で撮影した写真を中心にしたブログで、今度の11月で開設して2年を迎えます。
地元で撮影をしているうちに、東戸塚駅周辺の地域が、住み始めた時に考えた以上に、自然の豊かな場所であること、古い歴史を持っていること、そして、農地が多く残っていることを実感するようになりました。

とは言うものの、東戸塚もさらに開発が進んでいるようですし、日本の農業の現状を考えるに、いつまでその状態が維持できるのかについては、大いに疑問があります。
都市部において農業を存続させることについての意義や方法論については、僕なりに考えていることはあるのですが、いかんせん素人考えです。
そこで、「まちづくり」「都市における農業」をキーワードに本を探してみましたが、思うような本はなかなかありません。その中でやっと見つけたのがこの本です。

この本では、農業を専門に営んでいるわけではない人達が農業にふれる意義と方法について述べています。
これまでの農業に関する本の多くは、もっと本格的に職業として農業を選ぶ人に向けてのものが多かったと思うのですが、この本では、普段はサラリーマンとして働きながら、週末などの空いた時間を使って農業に参加している人達の事例を中心に紹介しています。
さらに、そうやって市民が農業に参加することが、農家の収益の増加、遊休地の増加や人手不足といった問題の解決など、産業としての農業が存続できる基盤を固める方向につなげられているのがよいと思います。

都市部にある農地を市民に使ってもらうパターンの他に、地方の農地まで足を運んでもらうパターンや、別荘のような形で居住区域まで設ける方法、さらに地方に移住して農業を始めるパターンなど、農業に関わることのできるさまざまな方法が紹介されています。
それぞれの地域の実情に合わせ、また、各人の目的意識や生活状況に合わせて、こういった形での農業への市民参加、そして農業の復権が図られればよいな、と思っています。

農業に興味のある人から、なぜ今さら農業なのかという疑問を感じる人まで、ぜひ読んで欲しいと思う一冊です。

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「風に桜の舞う道で」

4101298521風に桜の舞う道で (新潮文庫 た 83-2)
竹内 真
新潮社 2007-09-28

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「自転車少年記」を読んで、すっかり好きになってしまった竹内真さんの本です。

この物語の舞台は、ある大学受験予備校の寮。つまり、浪人生たちが主人公です。とはいうももの、特待生のみを集めて快適な学習環境を提供しようという寮なので、貧乏学生たちのバンカラな話を想像してはいけません。
語りの手法として、浪人時代の一年間と、それから十年たった現在とを交互に織り交ぜながら語っています。
これが、とてもうまく行っている感じです。
「自転車少年記」を読んだ時にも感じたのですが、登場人物の「成長」とか、「社会」の中で人と人とがどう関わって生きていくか、という部分の描き方が、非常に前向きで、しかも明快なのです。
大学を卒業して、研究者になっている人、大蔵官僚になっている人、ラーメン屋の店長になっている人と、ざまざまな道を歩いている人がいるわけですが、その人が現在どんな風に他人や社会と関わっているかが、しっかり描かれている感じがします。
そして、浪人生活を振り返る中で、その人がどんな背景を背負ってそこにたどりついたのか、がわかるような描き方になっています。
そんな様々な考えと背景を持った学生たちが集まった場所として、「予備校の寮」という設定はぴったりだったような気がします。大学ではすでに専門に分かれてしまっていますし、高校では、そこまで自分の進路や将来について真剣に考えないのではないでしょうか。
何よりも、「浪人」という、どこにも属さない、中途半端な時期であるからこそ、自分が何者であるかを問わずにいられない心理的状況というものが、よく描かれていたように思います。
まあ、僕自身に浪人の経験があり、その一年間で得たものが非常に大きかったという思いがあるので、そういう意味での共感性も高かったと思いますし…。

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「半島を出よ」

4344410009半島を出よ 上 (1) (幻冬舎文庫 む 1-25)
村上 龍
幻冬舎 2007-08

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村上龍さんの「半島を出よ」を読みました。
僕は、村上龍さんの小説は、それほどたくさん読んでいる方ではないと思うのですが、「五分後の世界」とか「愛と幻想のファシズム」は好きです。
「半島を出よ」も、現代の日本の、精神的、経済的、政治的な脆弱性を描き出そうとしているという点において、上記二冊と同じ流れにあるのではないか、と思います。
ただ、書かれている内容の現実性や、フォローしている視点の多さが、「五分後の世界」とは段違いですね。小説よりもルポルタージュに近いのではないかと思わせるくらいです。視点が多い分、登場人物も多くなっていて、感情・思考をその人と共有することで作品世界に入り込めるようになっているので、語りの手法としては、非常に小説的なのですが。

登場人物としては「昭和歌謡大全集」と共通する所があるようです。この小説も、読んだ覚えはあるのですが、あまりいい印象を持たなかったことぐらいしか記憶にありません。
先ほどは「現実性」という言葉を、説得力を持つための有益な手段として、プラス方向の意味で使いましたが、逆に言うと、情報量が多すぎて、フォローしきれない部分が出てくるという悪い面もあるわけで、特に、高麗遠征軍を迎え撃つ立場として登場する少年グループの、武器やら戦闘方法やらに関する細かい情報に関しては、やや煩わしく感じる部分があり、不本意ながら斜め読みで済ませてしまった所もあります。
とは言うものの、社会の「異物」として描かれている彼らにしても、彼らを「異物」としてしか扱えない社会の一面を示唆していたり、彼ら側の視点で物語を読んでいると、彼らと「一般人」との間には、極めてわずかな差しかないのではないかと思わせたりする部分があり、大半は、なかなか面白く読めたことは確かです。よく、一般社会を貶めるために、社会に適応できなかった人たちを、必要以上に英雄視して描写する物語がありますが、ああいう感じではなかったです。
批判をするということと、貶めるということは、まるで違った行為ですからね。

そういう意味では、北朝鮮に対する描写も同様だと思いました。
この小説が単行本で出版された時、正直、あまりいい感じがしませんでした。それは北朝鮮を仮装敵国として書いていることが前面に押し出されていたからです(読んでいないのですから『内容』から感じたのではなく、『広告』から感じたことですが)。
もちろん北朝鮮の政治的立場を擁護するわけではありませんが、マスコミの北朝鮮に関する報道の姿勢は、僕にはどうも好きになれません。太平洋戦争の時の「鬼畜米英」と何が違うんだろう…と思わせるような部分が少なからずあるように思うのです。
そんな世間の風潮の中で、国民感情をさらに焚きつけるような設定の本を出さなくても…という思いが、正直ありました。
しかし、実際に本を読んでみて、彼らを貶めるわけでもなく、必要以上に持ち上げることもなく、彼らの立場や視点も、そして限界も、誠実に書こうとしたのではないかな、という印象を持ちました。

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「木洩れ日に泳ぐ魚」購入

恩田陸さんの新刊「木洩れ日に泳ぐ魚」を購入しました。
川崎ラゾーナの丸善にサイン本があったので…
サイン本は、復刊「すくらっぷ・ブック」についで2冊目です。

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「エバーグリーン」

4575235555エバーグリーン
豊島 ミホ
双葉社 2006-07

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「エバーグリーン」というタイトルを直訳してみると「永遠の青春」て所でしょうか。
子供の頃に感じていたこと、特に「自分」という存在に敏感な中高生の時に感じていたことは、「永遠に忘れてはいけないもの」として、自分の中で特別な存在になっていたりします。
しかし、それらは、途中で挫折して手放さざるを得なかったり、いつの間にか忘れてしまったり、「いつかきっと」と思うままに時が過ぎてしまったりして、大人になる頃には無くしてしまっていることも多いのではないでしょうか。あるいは、大人の目からみると、その他愛もなさに幻滅してしまい、別の何かに置き換えられてしまうということもあるかもしれません。
この物語には、かなった夢とかなわなかった夢の両方が登場します。そして、どちらかが幸福でどちらかが不幸ということではなく、両者それぞれの幸福が描かれていると思います。
ちょっと予定調和的すぎる所があるかもしれませんが、僕は「かくありたいと思う理想を語る物語」は結構好きなの、結構気に入りました。
僕がこの物語が好きな理由をもう一つ。
この物語も、大きく分類すれば恋愛物語、特に初恋の物語と言えるかもしれません。でも、恋愛って何だろうって考えると、結構難しいと思います。この辺りは人によって違うのでしょうが、一緒に遊んで楽しいとか、外見が美しいとか、生きる作業を共同で行えるとか、色々あると思います。
でも、自分の、特に若い時代の経験を振り返ってみると、「かくありたいと思う自分を共有できる」という点が重要だったように思うのです。今にして見ると、というより当時からうすうす感じてはいましたが、その場合の恋愛というのは、多分に自己投影的な所があって、本当に相手の姿が見ているかというと、そうでもないことが多い。でも、そうやって、他者の目を意識しながら自意識を育てていくのって、大切な経験であるような気もするのです。
この物語に登場する初恋物語は、そんな僕の感覚に非常に近いのです。ですから、恋愛物語って言えばそうかもしれないけれど、実は、自分を発見する物語の要素の方が強い。そんな物語だと思います。

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8月の新刊

遅ればせながら8月の新刊です。
残念ながらビックタイトルは無しですね。

08/07
まほろばの国で/さだまさし
幻冬舎/幻冬舎文庫

08/07
カッシーノ/浅田次郎
幻冬舎/幻冬舎文庫

08/10
富士山大噴火/鯨統一郎
講談社/講談社文庫

08/10
絶対可憐チルドレン 10/椎名高志
小学館/\431

08/上
水神の祭り/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

08/17
新吼えろペン 8/島本和彦
小学館/\588

08/17
花よりも花の如く 5/成田美名子
白泉社/\410

8/下
ぶるうピーター 3/小山田いく
ブッキング/\2415

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「青空チェリー」

4101199418青空チェリー (新潮文庫)
豊島 ミホ
新潮社 2005-07

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「檸檬のころ」と「底辺女子高生」の世界観が割と近かったので、他の作品も同じ傾向なのかなと思っていた所にこの本を読んで、この作家の持つ幅の広さを感じ、衝撃を受けました。
中編3作からなる作品集なのですが、どれも傾向が全く違うんですね。
「ハニィ、空が灼けているよ」は、日本が戦争に参加する話。「戦争が起こる」というと、もっと直接的な感じがするけれども、この話では、戦場になるのはほとんど国外なので「参加する」という書き方にしてみました。戦争に言及した小説というと戦争の悲惨さを描く場合が多いと思うのですが、そういう意味ではこの作品は異色で、直接的に人が死ぬシーンが出てくるわけではありません。というより、将にそのことによって、人の死についての現実感の無さに対する恐怖の方を描いていると言ってよいでしょう。そして、戦争に無自覚でいる人たちと戦争に自覚的であろうとする人物の両方を描き、なおかつ、その両者の感情が交錯する形で描かれているため、ストーリーとしても感情表現にしても、読み応えのある物語になっていると思います。
「青空チェリー」は「女による女のためのR-18文学賞」受賞作品で、筆者のデビュー作です。文体も内容も衝撃的ではありますが、逆に、ちょっと衝撃を意識し過ぎな所を感じました。それに電車の中で読むには恥ずかしいし(笑)。でも、孤独な妄想から他者への共感へと移行し、そのまま結末かと思いきや、現実は妄想とは違うという部分を出してきて、それでもプラス志向で終わる辺り、なかなかの構成です。
「誓いじゃないけど僕は思った」は、中学時代の同級生を思い続ける大学生の話。こういう設定の場合、これをプラス側に捉えて純愛物語にしてしまうか、マイナス側に捉えてストーカー的な話にしてしまうか、ではないかと思うのですが、この物語では、どちらかに留まることをせずに、両方の要素をうまく取り入れているんですね。振幅の幅が大きい分、主人公の迷いも、苦しみも、一途さもいっそう印象的になっている気がします。実は、僕自身も、ここまで極端ではありませんが、大同小異かもしれないシチュエーションを経験しているので、身につまされるという部分もあったりします。あまり大きな声では言えませんが(笑)。

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「底辺女子高生」

4344408322底辺女子高生
豊島 ミホ
幻冬舎 2006-08

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「檸檬のころ」が気に入ったので、同じ幻冬舎文庫に入っているエッセイ集を読んでみました。
小説とエッセイで文体がちがう作家はたくさんいますが、この作家もそのタイプですね。エッセイの文体は、若さ全開です。ただ、勢いはあるもののガサツな感じを受ける文章ではないので、読みづらくはないです。
エッセイなので、自分自身の体験を綴った部分が多いのですが、「檸檬のころ」のエピソードと重なる部分もあり、あの話はこういうネタからできたのね、と思わせる部分もあります。
また、表紙やイラストを作家本人が書いているというのも斬新な所。

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「檸檬のころ」

4344409221檸檬のころ
豊島 ミホ
幻冬舎 2007-02

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映画化のせいか、平積みになっているのをずいぶん前から見かけて、気にはなっていたのですが、なかなか手にとる機会がありませんでした。帯の写真も割りと好きな雰囲気です。
僕は普通の青春小説が好きなんですが、意外とその手の小説って少ないんですよね。ミステリーだったりSFだったりという要素がからんできたり、援交とかイジメとかの社会的要素がからんできたり、という場合が多いのです。
僕は、自分の性格がそうだからなのかもしれませんが、小説に特殊性や奇抜性を求めません。どちらかというと、普遍性を持つ作品が好きです。平凡なものの中にある豊かなものを、きちんとすくい上げることができている作品が好きなのです。
この作品は、そんな僕の好みにぴったりと合った作品です。しかも、作品の舞台が固定され、少しずつ視点をずらして描いてく、凝った作りの連作集。
かなり、お勧めです。

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「テツはこう乗る」

4334033520テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅
野田 隆
光文社 2006-04-14

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しばらく前に「鉄子の旅」というマンガが書店にたくさん並んでいるのを見かけました。
「テツ」というのが「鉄道好き」のことを指す言葉だということの認知度も上がっているのでしょうか。
僕は、「テッちゃん」と呼ばれるほど鉄道にくわしくないですし、最近はそれほど旅行もしてないですが、
高校時代には、ワイド周遊券を駆使して鉄道旅行に出かけていましたので、人並みよりは鉄道に対する思い入れは深いかもしれません。

この本は、「テツ」と呼ばれる人たちが、どんな楽しみ方をしているのかを、浅く、広く、説明したものです。
この程度なら、「ちょっと鉄分をふくむ」くらいの人(つまり僕のような人)でも、楽しく読めると思います。
それに、鉄道の本というと、ローカル線に乗ってみたり、乗りつぶしをしてみたりと、時間とお金がかかる、ちょっと手の出しにくいような楽しみ方しか載せてしないものが多かったのですが、これは、通勤途中でも楽しめる「テツならではの視点」が紹介してあって、そういう点でも高評価。

高校時代は、種村直樹さんの「鉄道旅行術」「旅のABC」が愛読書だった僕にとって、久しぶりに懐かしいものに出会えた感じのする本でした。
そういえば、宮脇俊三さんの「時刻表ひとり旅」も新装版が出てましたね。

4061456202時刻表ひとり旅
宮脇 俊三
講談社 1981-01

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6月の新刊

06/上
紅鶴城の幽霊/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

06/14
地図にない国/川上健一
双葉社/\双葉文庫/\730

06/15
辺境警備(3)/紫堂恭子
集英社/ホーム社漫画文庫/\700

06/15
辺境警備(4)/紫堂恭子
集英社/ホーム社漫画文庫/\700

06/15
ギャラリーフェイク(19)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

06/15
ギャラリーフェイク(20)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

06/22
ハツカネズミの時間 3/冬目景
講談社/\580

06/26
転校生 さよならあなた/三国桃子
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/\546

06/28
聞きたい言葉 おいしいコーヒーのいれ方(9)/村山由佳
集英社/集英社文庫

06/28
ぐるりのこと/梨木香歩
新潮社/新潮文庫/\420

06/28
卵の緒/瀬尾まいこ
新潮社/新潮文庫/\420

06/28
闇の守り人/上橋莱穂子
新潮社/新潮文庫/\580

06/29
テレキネシス 4/芳崎せいむ
小学館/\530

06/下
ぶるうピーター 2/小山田いく
ブッキング/\2415

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フォト蔵から生まれた雑誌「ZOOMo」創刊

ZOOMo デジタルフォトコミュニティ[ズーモ]

いつも右側のサイドバーに写真がスクロールしていますが、
これは「フォト蔵」という写真SNSの機能を使用しています。
今度、「フォト蔵」のユーザーから投稿された写真を掲載した「ZOOMo」という雑誌が創刊されました。
僕の写真も1枚、小さくですが掲載されています。
SNSで親しくさせていただいてる方の写真がいっぱい載っているので、
共同写真展でもしているかのような気分です。
ぜひ、見て下さいね。

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「ぼくと、ぼくらの夏」

4167531054ぼくと、ぼくらの夏 新装版
樋口 有介
文藝春秋 2007-05

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本屋さんで平積みになっている新刊を見て、タイトルと「青春ミステリー」という帯の文句にひかれて購入したのですが、まさか15年も前の小説だとは思いませんでした。
途中、原辰徳が現役だったりする描写があるので、昔の設定なのかな、と思ったりしましたが、解説を読むまで全く気づきませんでした。

僕はミステリーというジャンルに、それほど強い思い入れはありません。その理由の1つに、事件を解決したいと思う人(それは話によって刑事だったり名探偵だったり素人探偵だったりするわけですが)が、事件を「謎解きの面白さ」という点から見る目に、違和感を持つ場合が珍しくないからです。
その点、この物語は、主人公が事件の謎を探るにあたり、自分がどんな気持ちでそれを行おうとしているのか自問する場面があったり、自分にとって大切なことを解決しようと焦るばかりに、他人の気持ちを踏みにじってしまったのではないかと悩む場面があったりして、良い感じでした。

それに、この物語で描かれる出来事は、全体像がわかるまでは、もちろん謎に満ちてはいるけれども、後から振り返ってみれば、それほど入り組んだ事件ではなかったはずです。それよりも、むしろ、この事件に関わった人々が、どんな気持ちでいたのかという、そちらにこそ、重きが置かれた小説なのではないか、と思いました。

麻子とぼくの恋模様については、麻子がなぜ僕のことを好きになったのか、僕が麻子のことを好きになった決め手は何だったのか、という点の描き方がやや甘く感じるのがもう一つ手放しにほめる気にならない所です。大体、ラストに麻子が登場しないですしね。二人のやり取りの軽妙さは楽しく読めるので、嫌いではないのですけれども、それが逆に類型的に見えてしまう部分があります。
ただ、僕の側が、事件にかかわることで、自分自身について、他人との関わり方について、父親について、多くのことを学んだことは事実で、少年が大人に向けて一歩を踏み出す、まさに青春時代の物語といえるのではないか、と感じました。

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「まひるの月を追いかけて」

4167729016まひるの月を追いかけて
恩田 陸
文藝春秋 2007-05

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恩田陸さんの「まひるの月を追いかけて」を読了。
最近、なかなか本を読む時間が取れないのですが、これは一気に読んでしまいました。
奈良の史跡をめぐる、というシチュエーションが、結構好きです。
最初に説明されていた人物関係が二転三転していく意外性も良いし、
自分をどうとらえるか、他人をどうとらえるか、という方向に思いが行くのも好みです。
異父兄弟という設定といい、何となく「夜のピクニック」に似ているな、と思いました。
登場人物の年齢層はずいぶん違いますけれど…。
「旅」をすることによって、新たな人物認識ができあがっていく新鮮さを感じました。
ただ、落としどころがちょっと……好みではないのが難点。

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5月の新刊

05/10
まひるの月を追いかけて/恩田陸
文藝春秋/文春文庫/\620

05/15
生まれる森/島本理生
講談社/講談社文庫

05/15
ギャラリーフェイク(17)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

05/15
ギャラリーフェイク(18)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

05/18
絶対可憐チルドレン 9/椎名高志
小学館/\410

05/21
零戦伝説/たがみよしひさ
学習研究社/420

05/25
村田エフェンディ滞土録/梨木香歩
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/角川文庫/\578

05/26
機動戦士ガンダム THE ORIGIN 15/安彦良和
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/\588

05/30
金魚屋古書店 5/芳崎せいむ
小学館/\590

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鎌倉観光文化検定

4774003573鎌倉観光文化検定公式テキストブック
鎌倉商工会議所 かまくら春秋社
かまくら春秋社 2007-04

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ここ数年鎌倉通いが続いている僕ですが、最近、書店で上のような本を発見しました。
今度新設されるものみたいですが、最近こういう検定みたいのがはやってますね。
受けてみたいのは山々ですが、日曜日は仕事だからなぁ…

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「バッテリー VI」

4043721064バッテリー 6 (6)
あさの あつこ
角川書店 2007-04

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映画が公開されて話題になっていますね。
でも、僕は予告編を見た限り、小説とは別の話になっていそうで、恐いです。
いや、もちろん2時間の枠で話を作るのですから、小説をそのまま映像化するのは不可能でしょう。
僕が違和感を感じたのは、主人公・原田巧の野球に対する気持ちのとらえ方自体が全く違うように思えたからです。

僕がそこにこだわるのは、僕は「バッテリー」は少年の自我を描いているという点で優れた作品だと評価しているからです。
主人公の人物像に対して「生意気」「反抗的」と感じる人は少なくないでしょう。
管理野球・管理教育に対する批判として、反抗的な人物が持ち上げられて描かれる場合がありますが、
僕は、巧はそういう意図で書かれた人物ではないと思っています(部分的にそれを意図したのかな、と思う部分はありますが)。
それよりも、自分が何者であるのかという不安、それと真摯に向き合った結果、自分に対してシビアにならざるを得ないのではないか、そのシビアさを理解してもらいえないもどかしさがあるのではないか、そして、そういう自分を自分でも、もてあましているのではないか、と思うのです。
僕は豪に関してはそういう部分をあまり感じていないのですが、海音寺とか瑞垣とかの造形にも同じものを感じ、巧と豪の二人だけに焦点があるのではない、広がりを持った作品だと感じています。

さて、6巻ですが、途中まですごく面白く読んでいた(先述の海音寺とか瑞垣の話が盛り上がってますからね)のですが、それだけに中途半端な終わり方(しかもこれで完結ですからね)をされてしまったなぁと思います。
おそらく筆者としては、門脇と対峙する舞台に上がるまでが大切なので、そこに向かう気構えが描ければ良かったのかな、とは思うのです。それで、巧と豪のバッテリーの、出会いから自立(精神的な)までを描いたことになるのかもしれません。でも、話の流れとして、最後は盛り上げて欲しかった。「タッチ」の達也と新田の対決だって、「H2」の英雄と比呂の対決だって、ちゃんと決着をつけたじゃないですか…

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4月の新刊

4月の新刊です。
「そのときは彼によろしく」「黄昏の百合の骨」は単行本で持っているのでパスですね。「辺境警備」は小学館版と角川書店版の2種類あるし…(^_^; この3冊はいずれも名作ですから、未購入の方にはお薦めです。
「そのときは彼によろしく」は長澤まさみ主演で映画化されるようです。6月2日公開予定。
「黄昏の百合の骨」は本来の水野理瀬の話なので「麦の海に沈む果実」を読んでから読まないとわけがわからなくなりますが(^_^;
「Q&A」と「後巷説百物話」が楽しみです。
「バッテリー」は予告編を見る限り、小説とは別の話になってそうな気がするのですが、どうなんでしょう?

4/05
バッテリー(6)/あさのあつこ
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/角川文庫/\500

04/06
そのときは彼によろしく/市川拓司
小学館/小学館文庫/\730

04/上
もう一つの王国/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

04/12
Q&A/恩田陸
幻冬舎/幻冬舎文庫

04/12
スタア/清水義範
幻冬舎/幻冬舎文庫

04/13
黄昏の百合の骨/恩田陸
講談社/講談社文庫

04/14
ギャラリーフェイク(15)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

04/14
ギャラリーフェイク(16)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

04/18
辺境警備(1)/紫堂恭子
集英社/ホーム社漫画文庫/\700

04/18
辺境警備(2)/紫堂恭子
集英社/ホーム社漫画文庫/\700

04/19
新吼えろペン 7/島本和彦
小学館/\560

04/24
憑神/浅田次郎
新潮社/新潮文庫/\580

04/25
後巷説百物話/京極夏彦
角川書店発行/角川グループパブリッシング発売/角川文庫/\945

04/下
ぶるうピーター 1/小山田いく
ブッキング/\2415

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3月の新刊

今月はチェック本がたくさんあります。
「1ポンドの福音」とか「アクマくんにお願い」とか、懐かしいマンガが復活して嬉しいですね。
(「1ポンド」は続編、「アクマくん」は文庫化で、意味合いは別ですが…)
「ぼくのボールが君に届けば」は野球の物語を集めた短編集。結構好きです。

03/02
禁じられた楽園/恩田陸
徳間書店/徳間文庫/\840

03/02
黄昏の名探偵/栗本薫
徳間書店/徳間文庫/\620

03/02
オサムシ教授の事件簿 4/山口よしのぶ
集英社/\530

03/05
1ポンドの福音 4/高橋留美子
小学館/\530

03/09
輪違屋糸里(上)/浅田次郎
文藝春秋/文春文庫/\570

03/09
輪違屋糸里(下)/浅田次郎
文藝春秋/文春文庫/\570

03/15
ぼくのボールが君に届げば/伊集院静
講談社/講談社文庫

03/15
駅までの道をおしえて/伊集院静
講談社/講談社文庫

03/15
野球がメチャクチャ面白い。/伊集院静
講談社/講談社文庫

03/15
身も心も 伊集院大介のアドリブ/栗本薫
講談社/講談社文庫

03/15
ギャラリーフェイク(13)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

03/15
ギャラリーフェイク(14)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

03/15
アクマくんにお願い/日渡早紀
白泉社/白泉社文庫/\620

03/中
ゆらぎの森のシエラ/菅浩江
東京創元社/創元SF文庫

03/19
ボクを包む月の光 4/日渡早紀
白泉社/410

03/28
精霊の守り人/上橋菜穂子
新潮社/新潮文庫/\580

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2月の新刊

今さらながら、2月の新刊です。
さぼっているうちに、「のだめ」の発売日になってしまいました。
「ギャラリーフェイク」は以前10巻まで刊行されていた続きです。

02/08
みなとみらいでつかまえて/鯨統一郎
光文社/光文社文庫

02/上
闘王/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

02/13
のだめカンタービレ 17/二ノ宮知子
講談社/\410

02/15
ギャラリーフェイク(11)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

02/15
ギャラリーフェイク(12)/細野不二彦
小学館/小学館文庫コミック版/\630

02/下
魑魅/小山田 いく
ブッキング/\2520

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12月の新刊

12/上
タイスの魔剣士/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

12/14
クレオパトラの夢/恩田陸
双葉社/双葉文庫/\610

12/15
となり町戦争/三崎亜記
集英社/集英社文庫

12/16
絶対可憐チルドレン 7/椎名高志
小学館/\410

2/22
あかんべえ(上)/宮部みゆき
新潮社/新潮文庫/\620

2/22
あかんべえ(下)/宮部みゆき
新潮社/新潮文庫/\620

12/26
機動戦士ガンダムTHE ORIGIN 14/安彦良和
角川書店/\588

12/26
PLUTO 4/浦沢 直樹
小学館/\530

12/下
すくらっぷブック 4/小山田 いく
ブッキング/\2415

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「狐笛のかなた」

狐笛のかなた
上橋 菜穂子著
新潮社 (2006.12)
ISBN : 4101302715
価格 : \620

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最近、あまり本の感想をアップしてませんが、決して読んでいないわけではないのです。
ただ、仕事が忙しい中、文章をあれこれ練るのは、しんどい所があるので、それを押してでも感想を書きたいと思わせる作品が、なかなかなかったのですよね。

そんな中、久々に「この面白さはぜひ伝えたい!」と思う作品に出会いました。

最近は、ファンタジーブームらしいのですが、「龍の子太郎」に夢中になり、小学生の時の愛読書が松谷みよ子さんの「日本の伝説」(今は絶版(:_;))と坪田穣治さんの「日本のむかし話」だった僕としては、今、幅をきかせているのが西洋の世界観を基にしたファンタジーばかりだというのが、今ひとつ不満でした。
で、タイトルとあらすじを見て、和製ファンタジーらしい、というだけで購入してしまったのですが、これが大当たりでした。

僕も、昔(大学生時代)、「指輪物語」や「ゲド戦記」を読もうと思ったことはあるのですが、どうも物語の世界にうまく入り込めず、いずれも1巻を読んだだけで挫折したという経験があります。
なぜ肌に合わなかったのかということを考えてみるに、一つには、翻訳物の文体がどうも苦手だったこと、もう一つは、キリスト教的二元論がどうも苦手だったことがあるのかなぁ、と思っています。

この物語の場合、まずは、登場人物の心理描写が素晴らしい。
呪者や霊狐が登場し、その争いを描く物語ではあるのですが、小夜や野火の気持ちは、敵ではなく、己自身に向いています。僕は、やはり、自分自身の内面を見つめる物語が好きなんですね。そして、脇を固める登場人物たちの心情も、主人公二人ほどの描写はありませんが、そつなく語られていると感じました。

そして、その心情を表現する文章にも味があります。
説明的ではなく、かといって婉曲過ぎもしない。日本語の持つ美しさや、間合いと余韻を感じさせる文章だと思います。もちろん、これは、相性の問題もあるかもしれませんが。

それから、ストーリー展開がスリリング。ラストは、途中から「こうなるだろうな」と感じさせるものはあるのですが、逆に「えっ、こんな風に話がころんで、これで大円団に持ち込めるの?」と感じさせる展開が随所にあり、最後までハラハラさせられます。

温かみのある心情描写と、スリリングなストーリーと、両方を合わせもった、素晴らしい物語だと感じました。

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「せちやん」

せちやん
川端 裕人〔著〕
講談社 (2006.10)
ISBN : 4062755491
価格 : \540
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川端裕人さんの本を初購入。
「星を聴く人」というサブタイトルにひかれて手に取りました。

子ども時代のノスタルジックな思い出を持ちながらも、大人になるにしたがってその気持ちを忘れていく。
そして、何かをきっかけにして、自分の無くしてしまったものに気づき、自分の元いた場所に戻っていく。
すでに「何か」を無くしてしまった喪失感を抱えながら…。
そんなタイプの物語のような気がします。

星を聴くというのが、星そのものの観測ではなく、宇宙人の発する信号の観測、という所が僕の好みとは若干ずれている所や、「株」「IT」というある意味ステレオタイプなものが大人時代を彩るものとして描かれている所などはもう一つの感じです。
ただ、円環の物語としての美しさは感じられるように思いました。

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11月の新刊

先月に比べて、今月はさみしい感じ。月末のコミック3冊はとても楽しみですが…。


11/04
お伽もよう綾にしき 2/ひかわきょうこ
白泉社/\410


11/17
真夜中のマーチ/奥田英朗
集英社/集英社文庫


11/17
相克の森/熊谷達也
集英社/集英社文庫


11/22
サトラレneo 2/佐藤 マコト
講談社/\540


11/30
20世紀少年 22/浦沢 直樹
小学館/\530


11/30
テレキネシス 3/芳崎 せいむ
小学館/\530


11/30
金魚屋古書店 4/芳崎 せいむ
小学館/\590

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「家守綺譚」

家守綺譚
梨木 香歩著
新潮社 (2006.10)
ISBN : 4101253374
価格 : \380
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明治の書生が書いたというスタイルをとった擬古的な文体、妖怪や花々の存在感など、僕の好みに会う要素は多々あるのに、どうもピンとくるものがありませんでした。

話が象徴的すぎて、結局何の話なんだろうか、ということがわかりにくかったせいかもしれません。
登場するさまざまなモノの感情に、あまり起伏というものが感じられなかったせいかもしれません。

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「陰摩羅鬼の瑕」

陰摩羅鬼(おんもらき)の瑕 上
京極 夏彦〔著〕
講談社 (2006.9)
ISBN : 4062755009
価格 : \660
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今回の蘊蓄の中心は儒教でした。
と言っても、やはり妖怪や仏教とは関係があるわけで、中でも、墓や位牌というのはもともと仏教的なものではなく、儒教の祖先崇拝の影響を受けているという下りには、なるほどと思う所がありました。

これまでの京極堂シリーズと比べると謎解きの部分が単純と言えるかもしれませんが、僕にはこれくらいの方がちょうど良い感じです。
榎木津の失明は、ご都合主義といえばそうなんですが、伏線を引くのには有効でした。

退職した伊庭刑事がいい味を出しているし、関口巽がただ情けないばかりではなく、作家の作家たる所以を示している所など、キャラの良さが出ている話だと思います。

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「夜のピクニック」再読

映画が拍子抜けだったので(感想はこちら)、「『夜ピク』はあんなもんじゃないはずだ」という気持ちになったせいか、無性に原作が読み返したくなりました。
以前「文庫本の装丁が美しいので文庫本も買ってしまうかも」と書いたと思うのですが、実はすでに買ってあるわけでして、それを通勤電車の中で読み返していました。

やはり、この本の醍醐味は、「歩く」という単純な動作を繰り返す中、自己を反芻するという過程にあるわけで、台詞のおいしい部分だけを引っこ抜いて並べてみたところで、大した魅力はないということなのだと思います。

映画を見終わった後、「『夜ピク』を読み返す度に、映画の映像が浮かんだらたまらんなぁ」と思ったのですが、意外に影響はなかったですね。
ただ、映画を見て「こんな描写があったかなぁ」と思った所は、意外と小説にも似たような描写があって、「こんな所を読み落としてたんだ」と気づいた所がいくつかありました。西高の女の子のイメージが貴子に重なる所とか、集合写真の場面で忍と高見が融を貴子の側に行かせようとしている所とか、美和子が「異母きょうだいだもの」と言った時に貴子の方を見ていたこととか、ですね。

その中でも最も大事なのは「並んで歩く」というフレーズ。映画を見ながら「みんなで夜歩く」を何で変えたのかなぁとか思っていたので、「あっ、ここにあったのか」という感じです。
最初に読んだ時には、忍や美和子の友人評に気をとられていて、貴子はともかく、融の方のラストでの気持ちの変化は、あまり汲み取っていなかったのですね。今回読み返して一番新鮮に感じたのは、最後に融と貴子がならんで歩いている時の一体感でした。
このフレーズに気づいたから彼らの気持ちがわかったというより、彼らの気持ちがわかったからこのフレーズの重みに気づいたといって良いとは思いますが、「あっ、こんな所に」という発見の喜びを感じさせてくれたのは、曲がりなりにも映画のおかげになるのかもしれませんね。

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10月の新刊

10月の新刊です。
「自転車少年記」は、単行本で読みました。お薦めの一冊。


10/上
快楽の都/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

10/13
永遠。/村山由佳
講談社/講談社文庫

10/18
レインレイン・ボウ/加納朋子
集英社/集英社文庫

10/19
なんて素敵にジャパネスク 人妻編 4/山内 直実
白泉社/\410

10/23
EDEN 15/遠藤 浩輝
講談社/\540

10/30
天国はまだ遠く/瀬尾まいこ
新潮社/新潮文庫/\380

10/30
自転車少年記/竹内真
新潮社/新潮文庫/\820

10/下
すくらっぷブック 3/小山田 いく
ブッキング/\2415

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「コッペリア」

コッペリア
加納 朋子〔著〕
講談社 (2006.7)
ISBN : 4062754452
価格 : \660
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加納朋子さんといえば、ミステリー作家であるにも関わらず、事件や事故ではなく、日常の中にあるさりげない謎を描いてきた作家さんです。
この物語は、そういった雰囲気とはうって変わって、人形を愛し、それによって人生を変えられてしまったエキセントリックな人々が描かれています。それも、作る側、見る側、集める側、といった色々な側面から。
人形とは、文字通り「ひとがた」で、人に対する何らかの感情の代償行為なのでしょうが、そのエキセントリックさが、うまく描かれていたと思います。

ミステリーとして読んだ場合にも、先がなかなか見通せず、早くページをめくりたくなる内容でした。

欲を言えば、時間の経過と人称で読者に誤認させようとした場面が後半にありましたが、あれはちょっと中途半端でしたね。
あと、ラストがちょっとほのぼの系に傾いたかな…。加納さんらしいといえばそれまでですが、前半のハードさからすると落差が大きいかもしれません。

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「夜のピクニック」文庫化

夜のピクニック
恩田 陸著
新潮社 (2006.9)
ISBN : 4101234175
価格 : \660
[amazon.co.jpで購入]


恩田陸さんの「夜のピクニック」が文庫化されました。
映画も9月30日から公開されまます。(公式ホームページはこちら

僕は、単行本が出た時に読んで、とても気に入ったお話です。
その時の感想はこちらです。

映画のキャストも、なかなかいい人たちがそろっている感じ。
貴子役の多部未華子さんは、「HINOKIO」で見ました。映画自体はあまり好きではなかったのですが、彼女の演技にはよい印象を持っています。
融役の石田卓也さんは、声だけですが「時をかける少女」の千秋役をとても上手に演じていました。あれ、結構難しい役所だと思うんですよね。表面上は軽いんだけれども、最後のそれだけじゃない所を見せなくちゃいけない。
小説を読んだ時に「見る」という部分が印象に残った話だけに、映画でどう話を組み立てていくのか、という所が楽しみでもあり、怖くもあるのですが…

文庫本の装丁も素敵ですね。思わずこちらも買ってしまいそう(^^;

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9月の新刊

9月はチェック本がかなり多いです。
「アフターダーク」と「夜のピクニック」は単行本で購入済。


09/01
銅像めぐり旅/清水義範
祥伝社/祥伝社文庫/\650

09/04
オサムシ教授の事件簿 3/山口 よしのぶ
集英社/\530

09/07
サラマンダー殲滅(上)/梶尾真治
光文社/光文社文庫

09/07
サラマンダー殲滅(下)/梶尾真治
光文社/光文社文庫

09/07
夜のピクニック/恩田陸
新潮社/新潮文庫/\660

09/08
鬼譚草紙/夢枕獏
朝日新聞社/朝日文庫/\693

09/15
絶対可憐チルドレン 6/椎名高志
小学館/\410

09/15
分冊文庫版 陰摩羅鬼の瑕(上)/京極夏彦
講談社/講談社文庫

09/15
分冊文庫版 陰摩羅鬼の瑕(中)/京極夏彦
講談社/講談社文庫

09/15
分冊文庫版 陰摩羅鬼の瑕(下)/京極夏彦
講談社/講談社文庫

09/15
アフターダーク/村上春樹
講談社/講談社文庫

09/15
タッジー・マッジー 2/山口美由紀
白泉社/白泉社文庫/\680

09/20
軽井沢シンドローム・SPROUT 7(完)/たがみ よしひさ
秋田書店/\540

09/22
孤独か、それに等しいもの/大崎善生
角川書店/角川文庫/\578

09/28
八月の博物館/瀬名秀明
新潮社/新潮文庫/\860

09/28
家守綺譚/梨木香歩
新潮社/新潮文庫/\420

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「デジタル写真生活」

毎月20日ごろに、カメラ雑誌が発売になります。
僕が一番買っているのは「CAPA」で、ほぼ毎月買っています。
気になる記事があると買うのが「月刊カメラマン」。
どちらかというと、初心者向けの雑誌の方が好みです。

で、最近は「デジタル写真生活」という雑誌がお気に入りです。
隔月の発行なんですが。
「カメラ雑誌」といっても、機材の紹介や撮影技法の紹介だけではなく
写真を生活の中でどう楽しむか、というような部分にスポットが当たっているのが
よいと思います。
雑誌なので、ネット書店では買えないのですが、バックナンバーの注文などは
雑誌社(ニューズ出版)のホームページから可能です。

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「プレシャス・ライアー」

プレシャス・ライアー
菅 浩江著
光文社 (2006.7)
ISBN : 4334740928
価格 : \500
[amazon.co.jpで購入]


この物語で示されている命題の1つに、「コンピュータを使って何ができるのか?」ということがあげられると思います。
途中、コンピュータのインターフェースの進化を簡単になぞった記述があるのですが、思わずクスリとさせられる内容でした。僕がPCをいじり出したのはウィンドウズ3.1の時代なので、紙テープで出力していた時代からやってる人ほどの歴史的実感はありませんが、ゲームの方はブロックくずしからのつき合いですから、それなりの感慨はあるわけです。
「ネット社会」というキーワードでは、「五人姉妹」との共通性がないわけではありませんが、「五人姉妹」がネット社会における人間関係を描いたものだとすれば、「プレシャス・ライアー」はクリエイターの立場を描いたものといえます。そういう意味では、僕として共感度が高いのは、「五人姉妹」の方、ということになるでしょうね。
もっとも、僕は写真を撮るのを趣味にしているので、話をデジタルカメラに置き換えてみると、同じような命題は出てくるわけです。デジカメの画素数と作品としての価値は正比例しないってヤツですね。

A.I.のアイデンティティという方向から話をするとなると、また違った側面があるのですが、僕は、この話をそういう意味ではとらえていません。記憶の改変、もしくは仮想空間における自己のアイデンティティへの不安、というものをテーマにするには、技術論もしくは技術についての考え方に描写が偏っていて、心情中心にはなっていないように思うからです。

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「デッドエンドの思い出」

デッドエンドの思い出
よしもと ばなな著
文芸春秋 (2006.7)
ISBN : 4167667029
価格 : \480
[amazon.co.jpで購入]


僕は、よしもとばななさんの本って、あまり読んでないんですよね。
最初に読んだのは「TUGUMI」で、これはとても好きなんです。「死」というものに対する恐怖と、それに対する腹の決め方みたいなものが、とても印象に残る作品でした。
で、次に読んだ「白河夜船」があまり面白くなかったんですね。どう面白くなかったのかも印象に残ってないくらいです。だいぶ経って「体は全部知っている」を読んだ時もそうなのですが、これを書くことによって何を表現したいのか、ということが僕には伝わらないのですね。テーマという大袈裟なものではなく、描写の意味する所がよくわかからない、という感じなのです。

で、おそるおそる読んだ「デッドエンドの思い出」ですが、これは良かったですね。
「TUGUMI」ほどのインパクトがあるわけではないのですが、その分、日常の中に根付いた確かな何かを探りあてたような温かさがあります。
とくに、最初の「幽霊の家」が好きです。ハッピーエンドだし。

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時をかける少女 NOTEBOOK

4048539892時をかける少女 NOTEBOOK
ニュータイプ
角川書店 2006-07

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映画を見た勢いで「時をかける少女 NOTEBOOK」を買ってしまいました。
ストーリーガイドは映画を反芻するのにいい感じですし
スタッフインタビューも充実してます。
しかし、インタビュー読んでみると、皆さん大林監督版はすごく意識してるんですね。
まあ、あの作品に挑むつもりじゃないと、リメイクはできないんでしょうが。
でも、リメイクされた作品が前作より魅力的とは限らないわけで…
今回は、いい作品だったからいいんですけどね…

4870317427時をかける少女 絵コンテ 細田守
アニメスタイル編集部
スタイル 2006-07

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絵コンテの方は購入しませんでした。
完成したものから何を読み取るかを大切にしたいので…

時をかける少女   モーニング娘。新春!LOVEストーリーズ   時をかける少女

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「フフフの歩」他

4062731223フフフの歩
先崎 学
講談社 2001-04

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4167688018先崎学の浮いたり沈んだり
先崎 学
文藝春秋 2004-10

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4062754029先崎学の実況! 盤外戦
先崎 学
講談社 2006-05-16

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大崎善生さんの「編集者Tくんの謎」が面白かったので、その中に度々名前の出てくる棋士、先崎学さんのエッセイを読んでみました。
最初の「フフフの歩」の時には、どうしても将棋の内容の解説が入って来がちで、将棋にくわしくない僕にはわかりづらい部分もありました。あまり前置きもなしに、棋士の名前が出てきたりするにも、エッセイとしてはどうかな、とも思いました。
とは言うものの、「聖の青春」や「編集者Tくんの謎」で、かなり棋士の名前や人となりを知っていたので、僕自身にはあまり問題はなかったです。掲載されていた雑誌が「将棋世界」だったので、読者層として想定していた人も限られた人たちだというのもあったのでしょうね。「村山聖」についての話題が出てきた時には、亡くなる前の同時代の声として感慨深いものがありましたし。

「浮いたり沈んだり」「実況! 盤外戦」については、前述のようなわかりづらさはなく、楽しんで読めました。他の棋士の方について、という感じではなく、ご自身のことについての話が多くなっているようではありますが。

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「編集者T君の謎」

4062754185編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人びと
大崎 善生
講談社 2006-07-12

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大崎善生さんの初エッセイです。
これまでにも「聖の青春」などのノンフィクションで将棋界のことを書いてきた大崎さんですが、
今回はエッセイということもあって、肩肘張らずに、将棋界のいろいろな人のことを紹介してくれています。
将棋の世界、それも大崎さんが「将棋世界」編集長として見てきたような、棋界のトップクラスの人々ともなれば、将棋に対して、勝負に対して、さまざまな思い入れがあることでしょう。
その人となりを「将棋」というゲームの中だけにとらわれることなく、門外漢の我々に楽しく伝えてくれているエッセイだと思います。

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8月の新刊

今さらながら、8月の新刊情報です。
お盆の影響か、かなり少なめです。


08/上
豹頭王の挑戦/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

08/11
じーさん武勇伝/竹内真
講談社/講談社文庫

08/26
不死鳥のタマゴ 3/紫堂 恭子
角川書店/\546

08/下
すくらっぷ ブック 2/小山田 いく
ブッキング/\2415

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「タイムスリップ明治維新」

タイムスリップ明治維新
鯨 統一郎〔著〕
講談社 (2006.7)
ISBN : 4062754495
価格 : \730
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「タイムスリップ森鴎外」に続く、タイムスリップシリーズ第2弾です。
タイムパラドックスに陥らないように、本来の歴史とのずれを修正しようとあれこれ画策しているうちに、自分が歴史の流れを作ってしまうという、タイムパラドックス物の王道的なお話ですが、アクションあり、ラブストーリーあり、もちろんパロディあり、という語り口なので、楽しみながら読めました。
歴史のお勉強には…あまりならなかったかな(^^;
いろんな事件が出てくることは出てくるのですが、歴史的な位置づけうんぬんという難しい話にはならないので、どちらかというと「また正史通りにしないといけない課題が出てきたぞ」みたいな感じでしょうか。

歴史を題材にしたパロディで気に入っているのは、清水義範さんの「開国ニッポン!」です。
タイムスリップ物ではなく、もし、日本が鎖国をしていなかったら、という架空の歴史を描いた話です。幕末の日本が世界の中でどういう役回りだったかが、実際の歴史を描くよく強調されて描かれている感じで、新しい視点を感じた作品です。
もちろん、鯨統一郎さんの「邪馬台国はどこですか」も面白いです。この本の中でも、ちょっと内輪ネタで使われていますね。

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「時計を忘れて森へいこう」

時計を忘れて森へいこう
光原 百合著
東京創元社 (2006.6)
ISBN : 4488432026
価格 : \780
[amazon.co.jpで購入]

「十八の夏」で印象の良かった(といっても、自分のブログを検索してみたら、きちんと感想書いてませんでしたね)光原百合さんの本です。ネット上での評判も良く、楽しみにしていた一冊でもあります。

清海の森を舞台にした女子高校生の若杉翠と自然解説指導員(レンジャー)の深森護の交流を中心に、ミステリーの要素をからめた物語です。

森を舞台にした物語というと、なんとなく癒し系のような雰囲気がありますが、「人間が自然を保護する」ということの本末転倒さをきちんと意識した上で物語が作られてい辺り、うわべだけの「癒し系」にはなっていないはずです。僕自身は、自然保護活動の実際についてそれほどくわしいわけではありませんが、実際にもこうなんだろうなぁと思わせてくれるだけのリアリティがあります。
その辺りは、人物造形やストーリーについても同じで、人間の心の弱さについて、逆にそれを克服する強さについて、考えさせられる物語になっていると思います。

でも、諸手を挙げて「すばらしい物語」と言えるほど夢中になれたかというと、そうでもないんですよね。
いい話だと思うのに、なぜなんだろうと考えると、思い当たることが2つほどありました。
1つ目は、ミステリーの要素を持たせるために「謎」を作ろうとしてしまっている部分があるのではないか、ということです。特に、第2話で写真の謎を解くために、こずえさんと翠がいろいろな手を使って調査する場面は、冗長に感じました。第3話でも、工藤さんと弥生さんの結びつきが唐突だった感じがします。東京へ帰ってからの二人の物語というのがもう少しあってもいいと思うのです。それというのも、後で弥生さんの事情を護さんが解説してみせる伏線のため、ゆうゆう倶楽部での出来事をたくさん語る必要があったからでは、と思うのです。2つ目は、人の心の暗部に、幼少期の親との関係を持ちだしすぎる、ということです。人の不幸を特殊な事情に求めなければならない、ということはないでしょう。特殊な環境にある人が必ずしも不幸であるわけではないでしょうし、家庭に恵まれた人は不幸ではない、ということもないでしょう。人の心のありように理由となる事情を求めてしまうというのは、その人そのものを見ることにはならないと思うのです。
ミステリーの世界では、事情がわかれば解決ですが、人の心の物語においてはそうではありません。どうも、その辺りのバランスが、微妙に好みに合わない点があるのですね。

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7月の新刊

07/06
世界の中心で、愛をさけぶ/片山恭一
小学館/小学館文庫/\520

07/07
化石の記憶(1)/たがみよしひさ
秋田書店/秋田文庫/\690

07/07
化石の記憶(2)(完)/たがみよしひさ
秋田書店/秋田文庫/\660

07/07
デッドエンドの思い出/よしもとばなな
文藝春秋/文春文庫/\480

07/07
百人一酒/俵万智
文藝春秋/文春文庫/\460

07/07
下山手ドレス別室/西村しのぶ
祥伝社/\830

07/10
自己創出する生命/中村桂子
筑摩書房/ちくま学芸文庫/\998

07/12
プレシャス・ライアー/菅浩江
光文社/光文社文庫

07/14
編集者T君の謎 将棋界のゆかいな人びと/大崎善生
講談社/講談社文庫

07/14
コッペリア/加納朋子
講談社/講談社文庫

07/14
タイムスリップ明治維新/鯨統一郎
講談社/講談社文庫

07/19
新吼えろペン 5/島本和彦
小学館/\560

07/19
ボクを包む月の光 「ぼく地球」次世代編 3/日渡早紀
白泉社/\410

07/22
トリアングル/俵万智
中央公論新社/中公文庫/\620

07/下
ロミオとロミオは永遠に(上)/恩田陸
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\714

07/下
ロミオとロミオは永遠に(下)/恩田陸
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\714

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「チョコレート・コスモス」

462010700Xチョコレートコスモス
恩田 陸
毎日新聞社 2006-03-15

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かなり前に読み終わってはいたのですが、なかなか感想を書くことができませんでした。
というのも、読む前に危惧していた通り、どうしても「ガラスの仮面」と比べてしまうのですよね。そして、残念ながら「『ガラスの仮面』を上回る面白さ」と言えないのが、悲しくもあるわけです。
かといって「全然面白くなかった」というわけでもないので、じゃあ、どこが良くてどこが今一つだったんだろう、とかいうことを考え出すと、筆が進まなくなるわけですね。

以前にも書いたように、東響子の設定は、いいと思うのです。彼女が今、女優という仕事について何を悩んでいて、何を欲しているか、というのがよくわかるので、彼女に対する共感度は高いです。
一方の飛鳥は、というと、あまり自己分析的なタイプではない。北島マヤのように、情熱だけは人に負けないというタイプでもないし、月影先生のように分析してアドバイスしてくれる人物もいない。というわけで、彼女についての記述は、とても説明的に感じてしまったところがあります。

それに、劇中劇の内容が、最初ちょっとわかりにくかったのも、入り込めなかった理由の1つでした。
「ガラスの仮面」では、マヤが演劇的知識にとぼしいという設定のせいもありますが、最初に演目のあらすじや、どこが演技のポイントになるのか、という点がなんらかの形で説明されています。しかし、この話は演劇に詳しい人が語り手になっている場合が多いので、僕のように演劇的知識にとぼしい人間にはとっつきにくい面がありました。特に、二次オーディションの「欲望という名の電車」では、東響子の演技を見た神谷が突然「スタンリーは誰がいいかな」とか思うわけですが、そういう所などは象徴的でしょう。まあ、二度・三度と読んでいくうちに、だんだん物語に入り込めるようになりはしましたが…

そして、物語の要になるオーディションの内容自体が、「ガラスの仮面」を想起させる要素が強いのです。
飛鳥が劇団に入る時の課題は、パントマイムでした。北島マヤが「オンディーヌ」で最初に見せたのもパントマイムでした。北島マヤは、技術的には低かったものの、小鳥がつかまえらずに困っている少女になり切ったのに対して、飛鳥は技術的に高いレベルを見せつけました。僕は「センス」という意味では北島マヤの方にインパクトがあると思うのですが…
さらに、一次オーディションはキャストの不足。これは、劇団つきかげが全国大会に出た「ジーナと青いつぼ」と重なります。演出としては飛鳥のやった方が深みがあるし、インパクトがあるのでしょうが、マヤの方は、1つの劇の中で多種多様な工夫を繰り出しているわけで、読んでいる方としては、後者の方が楽しめる感じがするのです。
二次オーディションの「影の演技」でも同様で、これは「二人の王女」のオーディションと重なります。確かに飛鳥の演技はすごいようですが、活字で説明しているような内容を、本当にその演技を見るだけで見ている側が汲み取れるのだろうか、という疑問がありますし、事実、本文の記述にも「あまりのレベルの高さに、客席では彼女が何をしているのか気付かなかった者もいたようだった」とあります。一方、北島マヤの演技は、いつも一般人の共感を受けてきました。
ようするに、飛鳥の演技は奥が深いという部分では北島マヤを上回っているけれども、エンターテイメントとしての力強さにかける感じです。

こう書いてみると、あらためて、演劇を活字で描くことの難しさを感じますね。そして、いまさらながら「ガラスの仮面」は偉大な作品だなぁ、と。以前も書いたと思うのですが、もう十分楽しませてもらったので、下手にこれ以上盛り上げようと画策するのではなく、上手に幕引きをして欲しいのですが…

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グイン・サーガ108「パロへの長い道」

4150308519パロへの長い道―グイン・サーガ〈108〉
栗本 薫
早川書房 2006-06

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グインサーガ・シリーズの108巻です。
最近、フィギア付ボックスを発売したり、1巻~5巻あたりを平積みにしてフェアをやったりと、広報活動が目立ちます。
未だに「七人の魔道師」にも行き着かず、遅々として進まないストーリーに業を煮やしたり、文体や登場人物の性格の変化に戸惑ったり、読者ばなれをを起こしてでもいるのでしょうかね。もちろん、これは僕自身が感じていることから類推した憶測に過ぎないのですが…

今度の巻は、やや昔の趣を取り戻した感のある、渋い話でした。もう少し、伯爵の悲しみが伝わる具体的なエピソードがあってもよかったかな、とも思いますが、未知の世界に迷い込む感覚を味うことのできる、「放浪編」を彷彿とさせる内容でした。
また、目新しい情報があるわけではありませんが、グインの世界の背景にあるSF的設定も、不自然ではなく、いい感じで語られてますし。

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「ブレイブ・ストーリー」

ブレイブ・ストーリー (上)
ブレイブ・ストーリー (上)
宮部 みゆき

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ブレイブ・ストーリー (中)
ブレイブ・ストーリー (下)
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宮部みゆきさんの冒険ファンタジーです。
宮部さんといえば、RPGのファンであることで有名ですが、冒険の内容も、幻界(ヴィジョン)の設定も、その方面の影響を多分に受けている、というより、意識して似せている部分があると思います。

しかし、この物語は、単にRPGを小説で書いた、というものではありません。
僕は、ファンタジーというのは、現実の世界からかけ離れたものではなく、そこで起こることを象徴的に描くことのできる物語だと思っています(その点はSFも同じ)。象徴的に描くことができるからこそ、「愛」だの「勇気」だの「希望」だのといった、現実世界の中で描こうとするとちょっと照れくさいようなことも、堂々と描けるのではないでしょうか。
そして異世界で起きたことは、絵空事なわけではなく、そこで得たものは、現実の世界にも力を及ぼしうるものとなって残るはず、と思うのです。

この物語は、そういった僕のファンタジー観をそのまま具現化したもの、といっても過言ではありません。
ファンタジーとしてはおそらく異例なことに、主人公が異世界に足を踏み入れるまでの物語が、前半3分の1をかけて描かれるということ1つをとってみても、いかにこの物語が「現実世界」を意識し、その中で生きていくための「心の成長」を描くことを大切に思っているか、ということがわかると思います。
しかも、この現実世界での主人公の描き方が、非常にリアルであり、そこに大きな共感を得ることができるからこそ、異世界での主人公の姿にも共感を持つことができるような気がします。

また、RPGが「ゲーム」であることによって生じる、一種の空洞化のようなものについても、示唆があるように思います。
かの有名なドラゴンクエストで、あちこちの家の宝箱を開けてまわることについて「勇者がそんなことをしてよいのか」という話があったように記憶しています。また、攻略本を見てひたすらゲームを先に進めていくことが行われるような風潮、友達の知らないようなマニアックな知識を手に入れること(特殊イベントとか)が自慢げに語られるような風潮があるのではないか、ということも感じています。
僕は、RPGというのは主人公と物語を共有することに楽しみがあると思っているのですが、この物語は、そういったRPGの楽しみを思い出させてくれるものになっているように思います。

と、まあ、色々と分析くさいことを書きましたが、そういう面倒なことを考えなくても、夢中になってストーリーを楽しんでいるうちに、主人公に共感して喜んだり悲しんだりしているうちに、以上のようなことが自然と実感できるような、面白いストーリーになっていることは、言うまでもありません。

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6月の新刊

ブレイブ・ストーリーは5月に角川文庫版が出ました。今月はスニーカー文庫版が出るようで、多方面展開を見せてますね。さすが「妖怪大戦争」の時にハードカバーと文庫を1か月違いで出した角川書店だけのことはあります。
「塗仏の宴」で出てきて、個人的になかなか面白いキャラだと思っている多々良先生の話がタイミングよく出るのですね。
「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズは集英社文庫の「ナツイチ」の定番です。また、夏が来るのだなぁと感じます。
そして「すくらっぷ・ブック」の復刊。手元に昔のコミックスはありますが、もちろん購入です。


06/01
ブレイブ・ストーリー(1)幽霊ビル/宮部みゆき
角川書店/スニーカー文庫/\600

06/01
ブレイブ・ストーリー(2)幻界/宮部みゆき
角川書店/スニーカー文庫/\560

06/01
ブレイブ・ストーリー(3)再会/宮部みゆき
角川書店/スニーカー文庫/\600

06/01
ブレイブ・ストーリー(4)連命の塔/宮部みゆき
角川書店/スニーカー文庫/\600

06/09
ドナウよ、静かに流れよ/大崎善生
文藝春秋/文春文庫/\570

06/上
パロヘの長い道/栗本薫
早川書房/ハヤカワ文庫JA/\567

06/15
文庫版 今昔続百鬼 雲〔多々良先生行状記録〕/京極夏彦
講談社/講談社文庫

06/16
絶対可憐チルドレン 5/椎名高志
小学館/\410

06/24
DIVE!!(上)/森絵都
角川書店/角川文庫/\580

06/24
DIVE!!(下)/森絵都
角川書店/角川文庫/\580

06/28
優しい秘密 おいしいコーヒーのいれ方(8)/村山由佳
集英社/集英社文庫

06/28
蛇にピアス/金原ひとみ
集英社/集英社文庫

6/29
レナード現象には理由がある/川原泉
白泉社/\630

06/下
すくらっぷ・ブック 1/小山田いく
ブッキング/\2415

06/下
時計を忘れて森へ行こう/光原百合
東京創元社/創元推理文庫/\780

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「塗仏の宴」

4062753669分冊文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (上)
京極 夏彦
講談社 2006-04-14

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文庫分冊によって、「宴の支度」3冊、「宴の始末」3冊、計6冊になるボリュームです。

民俗学度、妖怪度でいったら、これまでのシリーズの中で、最も高い話になるのではないでしょうか。
特に、「宴の支度」3冊は、妖怪学の集大成といってもいいくらいの内容です。
第1章の「ぬっぺらぼう」では、のっぺらぼうの「ぼう」とは何か、ということについて論証されています。これは、この話の最大のポイントである「くんほう様」への導入めいているので、学問的な論証ではないかもしれませんが、たぬきが化けるのではない「のっぺらぼう」が後世のものだという指摘は、確かにそんな気もします。
第3章の「ひょうすべ」では、河童とひょうすべの違いから、妖怪の名前の持つ意味を論じています。そして、河童よけの呪文にまつわる話から、河童が歴史的にどんな要素を背負っているのかを解き明かしています。僕は、妖怪の話は「民話」から入っているので、どうもこういう歴史的な理由付けは好まないのですが、それでも説得力を感じる内容でした。
第5章の「しょうけら」では庚申講の検証をしています。さらに、柳田國男や折口信夫の学説にもふれ、フィールドワーク中心の民俗学の盲点を示唆したりもしています。
第6章では富士講や浅間神社の話にもふれています。

また、この話には、占いやら自己啓発セミナーやら気功やらの団体がたくさん登場します。そういったものが人々にどのように働きかけ、どのように人々の信頼を勝ち得ていくものなのか、ということが、かなり詳細に記されたりしています。
単にそれが「詐欺だ」ということを述べているのではなく、人はどうてそれを信じてしまうのか、自分の判断をそれにゆだねるようになってしまうのか、ということを通して、「人間とはどういうものなのか」という部分に踏み込んでいるのではないかと思います。そして、人間が自分だと思っているものが、実はいかに頼りないものであるかということを描き出したりもしています。

一方、後半の「宴の始末」に入ってからは、これまでバラバラに描かれてきた各人の動向の関連性が解き明かされていき、ミステリーとしての魅力が浮かび上がってきます。
そして、最後には事件の黒幕となる人